銀座四次元ポケットpresents 山﨑晴太郎の銀座トークサロン銀座四次元ポケットpresents 山﨑晴太郎の銀座トークサロン

隔週水曜19:00-20:00ON AIR
  • RADIO REPORTRADIO REPORT
PROFILE

テキスタイルデザイナー×プロダクトデザイナー
須藤 玲子×柴田 文江

須藤 玲子

テキスタイルデザイナー/株式会社「布」取締役デザインディレクター
茨城県生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科デキスタイル研究室助手を経て、株式会社「布」の設立に参加。
現在取締役デザインディレクター。英国UCA芸術大学より名誉修士号授与。東京造形大学教授。
毎日デザイン賞、ロスコー賞、JID部門賞ほか受賞。無印良品のデザインアドバイザリーボード、株式会社アズのテキスタイルデザインを手がけ、山形県鶴岡市ほか、染織産地のデザインアドバイスを行う。
日本の伝統的な染織技術から現代の先端技術までを駆使し、新しいデキスタイルづくりをおこなう。
作品は国内外で高い評価を得ており、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ボストン美術館、ビクトリア&アルバート美術館、東京国立近代美術館工芸館等に永久保存されている。
代表作にマンダリンオリエンタル東京東京アメリカンクラブのテキスタイルデザインがある。
NUNO


柴田文江

プロダクトデザイナー/Design Studio S
武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、大手家電メーカーを経て1994年Design Studio S設立。
エレクトロニクス商品から日用雑貨、医療機器、ホテルのトータルディレクションまで、インダストリアルデザインを軸に幅広い領域で活動をしている。
主な作品に、無印良品「体にフィットするソファ」/オムロン「けんおんくん」/カプセルホテル「9h(ナインアワーズ)」/JR東日本ウォータービジネス「次世代自販機」/包丁「庖丁工房タダフサ」/木のおもちゃ「buchi」などがある。毎日デザイン賞/グッドデザイン金賞/ドイツiFデザイン賞金賞/アジアデザイン賞大賞・文化特別賞・金賞/JCDデザインアワード大賞/ドイツred dot design award賞など多数受賞。著書『あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ』。
Design Studio S

RADIO REPORT

vol.202016.03.2519:00-20:00

須藤 玲子 × 柴田 文江 × 山崎晴太郎

山﨑
松屋銀座屋上、ソラトニワ銀座からお送りしております。銀座四次元ポケットプレゼンツ、山﨑晴太郎の銀座トークサロン。アートディレクター、デザイナーの山﨑晴太郎です。本日は、初のゲスト2名体制です。それではお迎えいたしましょう。テキスタイルデザイナーの須藤玲子さんと、プロダクトデザイナーの柴田文江さんです。こんにちは。
須藤
こんにちは、須藤です。
柴田
こんにちは、柴田です。

デザインでつなぐ、伝統とその未来。

山﨑
おふたりの共通項で言うと、デザインコミッティーということになるんでしょうか?
須藤
そうですね。デザインコミッティーというのは、松屋の7階に「デザインコレクション」というショップがあるんですけどね。そこに並ぶ商品を選定したりしています。
柴田
あと、ギャラリーがあるので、そこの企画をしたりしていますね。
須藤
デザインコミッティーには、いろいろなジャンルのメンバーがいて、評論家、建築家、もちろんデザイナー、インテリアデザイナーなど諸々ですね。
柴田
私たちは2013年に一緒にコミッティーのメンバーになって、だからまだ新人ですよね。
須藤
そうそう、メンバーの中では、一番新米ですね。私、一番年長の新米です(笑)。
山﨑
デザインコミッティーは錚々たるメンバーが集まっていますが、普段からお忙しく活動されているんですか?
柴田
そうですね。月にいっぺん定例の会議があって。
山﨑
なるほど。現在も連続して、展覧会企画をやられていらっしゃいますよね?
柴田
はい。この間、第一弾として玲子さんがやられていました。
須藤
タイトルがね、「伝統の未来」っていうんですよ。
山﨑
おぉ、おもしろそうなテーマですね。
須藤
おもしろいでしょう。伝統が未来に向かって、どんな方向性を示しているか、という内容だったんですね。
山﨑
なるほど。
須藤
私は東京造形大学で教えているんですが、ちょうど2010年に産業クラスターっていうんですか、大学と福島県の会津で、「産地でなにか新しい動きを起こすようなことがスタートできないか」というのがあって。たまたま会津出身の先生が1人いて、その先生がきっかけになったんです。ところが、2011年に震災が起きるわけですよ。それでちょっと内容が変わっていったんですね。会津という土地は内陸部なので、津波の被害というよりも、ものすごく風評被害が酷かったんですね。それで、もともとは、「ものをつくろう」と思って私たちのプロジェクトはスタートしたんですけど、最初にやったのは、大学院生を連れていって、「とにかく会津でものを食べよう」ということからはじまったの。
山﨑
へぇ、とにかく食べる。
須藤
学生と話している中で、「それが一番、今、自分たちができることなんじゃないか」って答えに辿り着いてね。なかなか難しい問題ではあったんですけど、そこからスタートして、今年で4年目です。
山﨑
2012年から、ということですね。
須藤
そうですね。まずはものを食べる。リンゴをかじったり、お蕎麦を食べたり、ラーメンを食べたり、わっぱ飯を食べたり…。そういうことをしているうちに、「なんだか変なバスが何カ月かにいっぺん現れるぞ」と地元に認識されはじめて。私たち、学バスで行っていましたから。
柴田
そうなんですか?
須藤
そう。お金もなかったしね。そうしたら、県の人とか市の人が「なんかおかしいのが来ているぞ」と。「どうもいろいろなものを食べ歩いてるらしい」っていうので、そこから本当にいろいろと広がっていって…。赤べこづくりなんかもやったんですよ。
山﨑
素敵なつながり方ですね。
須藤
赤べこから、漆の職人さんとのつながりも、広がっていったりとか。それから、わっぱ飯屋さんに行ってご飯を食べていたら、そこに会津木綿があって、私、専門がテキスタイルなので、会津木綿の織元さんに行ったりとかね。そうやって広がっていったんですよ。それで、その時の成果展が、この前の展示だったんですね。
山﨑
なるほど。そうすると、コミッティーの参加者の方々が、各々でもともと持っていたプロジェクトをシェアして、ひとつの線にするというイメージなんですか?
柴田
そうですね。もともとはコミッティーの理事長である原研哉さんから、「『伝統とその未来』みたいなことをテーマに展覧会をやろう」というふうに声をかけてもらって。各自、なにかしら自分に関係があるようなことでもいいし、新たに興味があることをやってもいい。玲子さんみたいに、ずっと温めているものをやってもいいし。ただ私の場合は、プロダクトデザイナーなので、あんまりそういう伝統産業とかと関わることが少なくて…。だから、なにをしようかなと思っていたんですけど。
山﨑
柴田さんはいつ頃やられるんですか?
須藤
やるんでしょう?
柴田
やるんですよ、夏に。もうだいたいアイテムは決まっているんです。
須藤
なにをやるの?
柴田
実は、刃物をやろうと。
山﨑
おぉ、おもしろいですね。
柴田
私の仕事の中で、包丁をつくったりすることがあるので。包丁って、工芸やクラフトとプロダクトの中間的なものなので、それはおもしろいなと思って。
須藤
産地はどこ?
柴田
考え中。一応、燕をメインに考えているんですが。デザインコミッティーに、先輩のプロダクトデザイナーで川上元美さんという方がいらっしゃって。川上元美さんも刃物をデザインされていて、それは関なんですね。だから、日本の刃物の産地はいくつかあるんですけれど、2つぐらいの産地をやってもいいのかな、と思ってます。
山﨑
楽しみですね。その企画って毎月入れ替わりでやられていく感じなんですか?
柴田
今年はそうですね。
須藤
ずっとシリーズで。だから私たちは会津木綿と会津漆器をやったの。会津漆器はインダストリアルデザイナーの森田敏昭さんがデザインをした、禅宗のお坊さんが使う入れ子の器なのね。
山﨑
ええ、ありますね。
須藤
すごくおもしろくてね。だからその器ができたことで、そこからまた、たとえば、わっぱ飯屋さんのお料理屋さんが、その器に合うお料理を考えてもいいな、みたいな。それって未来じゃない?
山﨑
『ペイフォワード』みたいな感じですよね。
須藤
そうそうそう。私たちは、経糸を変えるってことがすごく大変なんですね。だから経糸はそのままに、つまり、これは伝統ですね。そうして、逆に、緯糸を今の時代だからできる、たとえば細い糸にして撚りを入れて…。そうすると、薄くてちょっと透け感があるような織物になるんですね。
山﨑
へぇ、そうなんですね。
須藤
でも経糸は絶対にいじらない。そこで伝統を守る、と。緯糸は未来だ、みたいな感じで。
山﨑
なるほど。おもしろい。
須藤
それで、そこにまたプリントを施すことによって、また次の段階に進んでいくので。そういうことで野良着だったテキスタイルが、突然こうちょっとお洒落に。
山﨑
ちょっと生き生きしはじめるような?
須藤
そうなの、そうなの。そういうところで伝統の未来っていうようなことを、私たちなりに考えています。

ふたりの原体験と共通点。

山﨑
おふたりはデザイン業界の中で、各々のジャンルでご活躍されていますけど、その原体験みたいなものを探ってみたいなと思っていまして。なぜ今のデザイナーとしての形にたどり着いたと言うか、きっかけはなにかあったんですか?
須藤
私はね、なんかすごく不思議なんだけど。うちの母がどういうわけか、日本画家の作品展に行ったらしいのね。そこで、惚れ込んじゃうわけよ。それで、私は高校1年生だったんだけど、突然母から、「ここへ行きなさい」って言われて。
柴田
へぇ、すごい。
須藤
私、そんなに美術なんて興味なかったんだけど。でも素直だったし、茨城生まれだし、みたいな(笑)。関係ないか、それは。関係ないよね。でも結局、それで通い出したわけですよ。
山﨑
へぇ、そうなんですね。
須藤
高校に行って、帰り道は必ず、その小林恒岳先生っていう日本画家の先生のお宅に行くわけ。でも、なにをするわけでもないのよ。その先生は、なんか釣りしかしていなくて、行ってもいないわけ。それで、奥さんが詩人だったんだけど、難しい話をいっぱいされるのね。さっぱり訳がわからなくて。
柴田
絵は描かないんですか?
須藤
絵は、描かない。だって先生いないんだもん(笑)。
山﨑
お茶を飲みに行くみたいな感じですか?
須藤
そうそう。素直な子だったから、親の言うとおりに。それがきっかけなの。それで、高校3年生になる春休みに、さすがに小林先生も「こいつ、よく通ってくるな」と。でも、絵を描くわけではない。教えてくれないんだから。それなのに突然、「どうするの?」って言われたわけ。どうするのって言われてもね。それでその時に、私は着物がすごく好きだったので、「実は、着物をつくれるような作家になりたい」って言って。
柴田
へぇ。
須藤
そしたら、「それだったら日本画を勉強しなきゃだめだ」って言われて。そこから猛特訓。
柴田
そうなんですか。釣りをしないで、教えてくださった?
須藤
そう、釣りをしないで、ちゃんと。それがきっかけですね。
山﨑
なるほど。そのテキスタイルデザイナーとしてのキャリアを描かれていく中で、今まで影響を受けたものってありますか?
須藤
そうね、「着物の作家になろう」と思って武蔵美に入るわけですけど、その専門の先生がどういうわけか退官されて、インダストリアルデザインと言うよりも、どちらかと言うと、ファインアートに近いテキスタイルを教える先生だったの。それがまたおもしろかった。あと、私たちふたりとも同じなんですけど、いろいろな材料を触るんですよ。木とかの素材をね、全て触ってから、専攻に分かれるっていう特殊な授業スタイルなのよね?
柴田
そうです。私たち同じ学科なので。
須藤
だから、たぶんそういうことが、かなり大きかったのかなと思いますね。
山﨑
なるほど、おもしろいですね(笑)。柴田さんはいかがですか?
柴田
私は、そんなドラマチックな話はないんですけど(笑)。もともと絵が好きで、デザインというか、「絵を描くような仕事に就けたらいいな」と思っていて。それで、たまたま友達が「美術大学に行くとデザイナーになれるらしいよ」と教えてくれて、「じゃあ、美術大学に行こうかな」ってことで行ったんですけど。でも、「プロダクトデザインっていうのは、こういう仕事だ」ってことは、そんなにリアルにはわかっていなくて…。なんとなく選んだら、こういう仕事だった、という感じなんですね。
山﨑
もともとは絵をやりたかったんですか。平面から立体に興味が移ったタイミングがあるんですか?
柴田
そうですね…。昔から立体のものがすごく好きだし、平面より立体をやりたい、というふうに思っていたんです。
山﨑
そうなんですね。
柴田
化粧品の瓶とか、今思えば、パッケージデザインがやりたかったんでしょうね。それをなんか間違えてプロダクトデザインだと思っちゃったんですね(笑)。でも武蔵美に行って、さっき玲子さんが言ってくれたみたいに、いろいろな素材に触れたりするので、そういった意味でも、だんだんプロダクトになっていった、と言うか。
須藤
テキスタイルもやったんでしょう?
柴田
うーん、糸を巻いたぐらいですね(笑)。
須藤
そんなはずないよ(笑)。
柴田
いや、私ね、実は実家がテキスタイル関係なんですよ。
山﨑
そうなんですか。
柴田
はい。玲子さんは、いろいろな地場の仕事もやられていて、私の実家の近くにも出没しているらしい。
山﨑
そうなんですか。そんなところも共通点があるんですね。
柴田
そうですね。実は、玲子さんは今すごく仲良くしていただいているんですけど、最近、大人になってから知ったことがあって。松屋で玲子さんと対談させてもらったことがあって、それを、私の同級生が大勢見に来てくれて。
須藤
そうだね、すごく多かった。
柴田
そう、本当に大勢来てくれたんですよ。「あぁ、私の同級生だ」と思っていたら、終わったらみんな「玲子先生」って言うんですよ。 「なに?」って聞いたら、実はみんな、私の同級生は玲子さんに教えてもらっていたんです。大学時代に。
山﨑
そうなんですね。柴田さんもですか?
須藤
教えてたの?
柴田
そうなんです。私が学生の時に非常勤で教えてくれていたので、私の同級生は玲子さんの教え子だったの。みんな、玲子さんのトークを聞きに来てくれて。
須藤
そんなことない。
柴田
それぐらい本当に大先輩なんですけど、コミッティーでは同級生なので、今はいろいろなところで仲良くしてもらっています(笑)。

近くて、異なる、デザインアプローチ。

須藤
武蔵美でいろいろな素材を触る、というような、そういう教育的原体験の共通軸みたいなものもあると思うんですが、お互いがお互いのクリエーションについて、どういう印象をお持ちですか?
柴田
そうですね。私からしたら、学生の頃から、本当に先生だったし、もう世界的なテキスタイルデザイナーですので、そういう意味では、お会いするまではすごくびびってましたね。
山﨑
なるほど。
須藤
ちょっと待ってよ、そんなの聞いたこともないぞ(笑)。
柴田
でも、玲子さんと知り合う前から「布」には何度も行っていたんですけど、「布」に行くって結構緊張するイベントだったんですよ、私にとっては。いつも、ヨーロッパの人たちがいっぱいいるようなお店で。
須藤
「布」ってね、私の店なんですけど。六本木のAXISビルの地下にあるんですけどね。あと松屋の7階にもあるんですけど。
柴田
それこそ伝統と未来じゃないけど、伝統的な手法を使っているようで、モダンなものがあったりして、しかもそこにはヨーロッパの人たちが沢山いて、若い頃の私にとっては緊張する空間でしたね。それで、「須藤玲子さんって、いったいどういう人なんだろう」と。そういう地場のものから、世界までをつないでいくものづくりをしている人って、どんな怖い人なんだろう、と思っていましたね(笑)。
山﨑
なるほど。逆に須藤さんから、柴田さんの印象はいかがですか?
須藤
私はね。柴田さんってほら、今はラジオだから見えないけど、すごく女子力が高いわけ。
山﨑
そうなんですね。そうなんですねって言うのもあれですけど(笑)。
須藤
そうなの。なのに、男前なんだよね。
柴田
いやいや。
須藤
だからものすごく綿密なんですよ、仕事の仕方がね。だからこそ、いろいろなクライアントのお仕事をしているんだけれども。それぞれ全く違うジャンルで、医療機器であったり、それこそ良品計画さんであったり、家電メーカーさんの仕事もあるし。それぞれの会社のためのものづくりをするのって、そのリサーチ量たるや半端じゃないと思うの。
山﨑
そうですよね。
須藤
そうでしょ?もうね、本当にすごい。だから、どちらかと言うと、私はやっぱり自分のためのものづくりをしているんですけど、柴田さんの場合は、クライアントがあって、そのクライアントが「なにを必要としているのか?」っていうことを、本当に徹底的に調べるんですよね。そういう中からデザインを組み立てていくっていうところが、やっぱり彼女の仕事を見ていると学ぶところが大きいなって、いつも思うの。
山﨑
アプローチの仕方が違うということですね。
須藤
そう。だからまさにデザインだなって。私のようなアプローチだと、極端なことを言うと、自分のためのものづくりをしてしまうので、どちらかと言うと美術的なところになりがちなんですよね。でも、「やはりデザインというのはそうじゃない」というようなところを、彼女と会ってからものすごく学びました。
山﨑
先ほど休憩の間に、「玲子さんと呼んでいい」という許可をいただきましたので、玲子さんと呼ばせていただきます(笑)。玲子さん、一番好きな素材というのはありますか?いろいろなタイプの、いろいろな素材を使って、つくられていますけれども。
須藤
体につけるものなら、断然シルクですね。
山﨑
へぇ、そうなんですね。
須藤
一番皮膚に近いところはシルク。それはなんでかというと、やっぱり体に沿いながら、すごく滑るんですね。だから、これはもう絶対シルク。あとインテリアだったら、やっぱり麻ですね。乾きがいいし。私はやっぱり麻とシルクかな。
山﨑
そうなんですね。
柴田
シルクで思い出したんですけど、前に玲子さんに教えてもらったことがあって。私、今日もちょっとシルクの服を着ていますが、シルクってどうしても緊張しちゃって、クリーニングに出すじゃないですか?でも、玲子さんが「水からできた素材は、水で洗っていいんだ」と。「石油からできた素材は、ドライクリーニングなんですよ」って教えてくださって。
山﨑
へぇ、そうなんですね。
柴田
「シルクはお家で洗っていいんだよ」って教えてくださったんですよ。
須藤
擦らないようにすればね。だからシャワーとかで流せば、絶対大丈夫。きれいに洗えますよ。
山﨑
そういうのを考えたことなかったですけど、今はマークが複雑ですよね。
須藤
そうそう。複雑過ぎるよね。でも、お湯はだめですよ。お湯は絶対だめ。シルクというと、やっぱり昔はお洗濯する時に、板に張ったんですよ。
柴田
へぇ。
須藤
それはどういうことかって言うと、板に張れば、布と布が擦れ合わないでしょう?だからなんですね。でも今は、洋服を分解して、板になんて張れないじゃない。
柴田
あっ、着物の時代ですね。私の実家もそういうことをやっていることもあるんですけど、実はあんまり織物に興味がなかったんですね。でも、そういう洗い方の話からね、「シルクと木綿は水の仲間だ」とか言われると、そのものづくりにすごく引き込まれますよね。
山﨑
引き込まれますね。全然違った示唆をいただいたような感じがするので。
柴田
私はね、洗濯するたびに、その礼子さんの話を思い出すんですよ。たぶんね、今ラジオを聞いている方も、「はっ!」と思うと思います。
須藤
だからね、ポリエステルを一生懸命お水で洗うんだけど、実は落ちてないんだよね。だって、入っていかないじゃないですか?油でできているものだからね。
山﨑
水と油は仲悪いですもんね。
柴田
やっぱりものづくりって、その素材に対する見方とか、本当のところを知っていかないとできないんだな、と思って。
須藤
でもそれは、柴田さんもそうでしょ?いろんな素材を使って。
柴田
私は基本プラスチックなので。プラスチックにもいろいろあるけど、基本的にすごく融通の利かない素材なんですよ。それぞれの癖があったり、つくる時にいろいろな条件があるんですけど。逆にそういう条件とか、そういうことを全部知れば、形が自在にできるんですね。
山﨑
確かに、そうですよね。
柴田
そういう意味では、私は私なりに素材に向き合っていますね。どうしてもプラスチックって敬遠されがちなんだけど、「プラスチックだから、エコロジーじゃない」ということもなくて。たとえば、使い方とか再生の仕方とか、なんでもかんでも自然のものを使うことがいいわけでもない。それ以外にも、木だったり、鉄だったりも使いますが、さっきの玲子さんの話じゃないけど、素材の本当のでき方とか、もともとの言われとかを知ることで、「適材適所に、無理なく素材を使えるな」というようなことを思ったりします。
須藤
そうね。だから考え方次第だなと思うのは、たとえば原油由来のものは、全部ケミカルリサイクルできるわけですよね。そういう意味でいうと、新しい原油を使わなくても、すでにあるプラスチック製品を集めて、また新しいプラスチックにしていく、ということができますから。だから、ある意味、非常にサスティナブルな素材とも言えますよね。
山﨑
確かに、そうですよね。
柴田
玲子さんってやっぱり素材を合わせたりしないんですか?あんまり。
須藤
できるだけ合わせない。それはある時期からですけど。それまでは、結構ミックスでハイパーな感じでやっていたんだけど。でもナイロンもポリエステルも、完璧にケミカルリサイクルできるようになったので、それからできるだけ油と水に分けるっていうようなことはしていますよ。
山﨑
なるほど。
柴田
私、実はその話を聞いていて、それもすごく印象的だったんですよ。私の世界では、違う樹脂同士を合わせてダブルモールドとかつくるんですけど、やっぱり分解できないとか、分別できないという問題があって…。どうしても違う素材を合わせなきゃいけないようなシーンもあるんですけど、そういう時にね、玲子さんの話をまた思い出すんですよ。
須藤
そうそう。だからね、懺悔の2003年以降みたいな。もう懺悔ですよ。
山﨑
今までの行為に対しての?
須藤
そう。たとえば、ポリエステルになにか天然繊維を混ぜていたようなものは、できるだけポリエステル100%にしていくとか。あるいは、ポリエステルとナイロンであるとかね。でもね、実は、それもだめなんですよ。ナイロンはナイロン、ポリエステルはポリエステル、って分けていかないとね。
山﨑
なるほど。
須藤
ただ、その時期というのは、2003年ぐらいだったっけ?「もう原油が枯れるぞ」と言われていた時期なんですよ。でも今ね、「あの話ってなんだったんだろう」っていうぐらいあるじゃないですか?
山﨑
そうですね。
須藤
ただ考え方としてはね、デザインをする段階でも、素材の歴史みたいなものと、これから20年後、30年後みたいなことを考えながらデザインしていく、というのも大事なのかもしれないなと思いますよね。

トップデザイナーの博学と哲学。

山﨑
いろいろとものをつくっていく中で、たとえばおふたりとも工業製品というか、インダストリアルというところを意識をされているのかなと思うんですが、つくり方のこだわりみたいなものってあるんですか?
柴田
私はね、いろいろなところで言っていますけど、本当に工業製品をつくることが多いので、工業デザイナーという肩書で呼ばれることもあるし、もちろん環境意識を持ちながらつくらなきゃいけない、っていうのはあります。一方で、出来上がったものは、さっき玲子さんが言った漆であるとか、布であるとかと同じように、日々自分の暮らしの中で、ずっと一緒にいるものなんですよね。でも、全然違うじゃないですか?漆と一緒にいるのと、プラスチックと一緒にいるのは全然違う。けれど、どうしてもプラスチックでなければいけないものもあるので、それをできるだけデザインの力で愛着を持てるように、しっとりつくりたいな、というふうにいつも思っていますね。
山﨑
なるほど。それが、柴田さんのおっしゃっている湿度感というものですか?
柴田
そうですね。はい。
須藤
素敵な言葉だよね。私もそれ、ぐぐっときて。
柴田
もともとが湿度のないものを相手にしているので。
山﨑
ちょっと補足をするとですね、柴田さんが「湿度感を意識してデザインする」というお話をよくされていて。僕も後でそのキーワードについて聞こうかなと思っていたんですけど、今出てきて。その感覚はもともと思われていたことなんですか?
柴田
そうですね。プラスチックでつくったものとか、プラスチックじゃなくても工業的につくったものって、自分と乖離したものじゃないですか?「それはそういうものなんだ」っていう時代もあったんだけど、やっぱり長く使っていくものをつくらなきゃいけなくなると、「なにかその形で湿度をつくれないかな」って思ったんですよ。
山﨑
なるほど。
柴田
本来、湿度って質感なんですけど、でもそうじゃないことが体験として何回かあって。形によってしっとり見えるものがある、っていうことを知って。デザインのテクニックなりを駆使して、形によって本来の湿度を変えていくみたいなことをすると、新しいプロダクトデザインと言うか、新しい関わりが生まれるんですね。
須藤
それって、具体的になにかある?
柴田
そうですね。実はね、学生の時にデッサンを描いていて思ったことがあって。石膏像を描いていて、ヘルメットって同じ石膏だけど、やっぱり乾いていますよね。でも、脇腹って同じ石膏なんだけど、形が湿っているな、と思って。それを描き分けますよね、デッサンって。描き分けるってことは、つくり分けられるなっていうふうに思ったのが、実ははじまりまりなんです。
山﨑
そこが原体験なんですね。もうそれは、つくる中で見つけてくるテクニックみたいな、ティップスみたいなものもありますよね?
柴田
そうですね。やっぱり、「しっとりつくる」ということが、もしかすると「ものに対する愛着」っていうことに近いような気がして。それを今探しています、ずっと。
山﨑
今、湿度感というお話がありましたけど、デザインをする上で、玲子さんが大事にしているキーワードみたいなものってありますか?
須藤
私はやっぱりテキスタイルなので、「もったいない」という感覚ですかね。テキスタイルってね、やっぱり残り布であるとか、廃材を利用する歴史なんですよね。だから、今はやっぱりそこかな、一番は。
山﨑
じゃあ、なるべくむだがないように。
須藤
そうです。ウールなんかは、本当に新しい糸を輸入するってことが大変だったのね。だから、日本中のそれぞれの家庭から出てくるウール製品を全部集めて、そこから紡毛の糸っていうのをつくったんだよね。
柴田
えっ、そうなんですか?
須藤
今でもやってるのよ。もうね、それは私も本当にびっくりして。もちろん明治時代は当然のことよね、全部輸入なわけだから。日本に羊なんていなかったわけだから。でも、今でもそれをやっているわけ。集めてきたセーターを溜めて、それで何百っていう色に分けるのよ。3年ぐらいかかるわけ、同じ色を集めるのに。そうすると、自然に同じメーカーの同じ色のセーターがどんどんどんどん溜まっていく。
柴田
今、鳥肌が立ちました。いつもこういう話があるんですよ。
山﨑
すごい話ですね。3年ですか。
須藤
だって100キロ溜めるわけ。私、本当にびっくりした。こういうボタンからもう全部。縫い目の糸からはさみで全部カットして、もう1回、綿にし直すの。
山﨑
染め直しとかじゃないんですね?
須藤
染め直さないの。同じ赤、黄色…、もうそれが何十って色があるわけよ。もうね、本当に感動した。「この国はすごい!」みたいな。
山﨑
そうですね。東北で震災の後に、三宅一生さんがやられていた裂き織りもそうですよね?集めたものを裂き直して、もう一回編み直すという。
須藤
そうです、そうです。
柴田
そういう精神がやっぱり宿っているのかな。
須藤
すばらしくない?今度それ、無印良品から出るんだけどね。今年の秋に。全く染めていないんですよ。
柴田
へぇ、そうなんですか。
須藤
糸にするんですよ。すごくない?感動でしょ?それをまた、要するに染め糸として、それで織物になったり編み物になったりして、商品になって出ていくわけ。
山﨑
すばらしいですね。感動して、ちょっと、次の言葉が出なくなったんですけど。
柴田
うん、私も本当に今、鳥肌立ちました。
山﨑
本当に、すばらしいお話をありがとうございます。もっといろいろとお話しをお聞きしたいのですが、そろそろ時間もせまってきているので、毎回させていただいている定番の質問を。おふたりにとって、デザインとはなんですか?
須藤
それ、私が聞きたいぐらいなんですけど。ただね、すごくおもしろい経験があって。2013年にオーストラリアで、「AGI idea」っていうシンポジウムがあったの。そこでトヨタのオーストラリアのデザイナーで、ニコラス・ホジっていう男の方なんだけど、その方が2000人の小学生を集めてワークショップをするっていうイベントがあったのね。そこで彼が言ったことが、「きみたち、悩みはない?」って。みんなあるわけ。小学生の10歳くらいの子たちが「あるあるある!」って。「うちの妹が邪魔」とか「車の中でうるさい」とか、いろいろなことを言うんだけど、彼が「その悩みを解決するのがデザインだ」って言ったの。
山﨑
なるほど。
須藤
私、それね、すばらしいと思って。
柴田
私もちょっと次に使わせていただきたい。
山﨑
その小学生にも伝わる言葉になっているというのがすばらしいですね。
須藤
ねぇ。でも、本当にみんな、悩みがあるのよ。リモコンがなくなっちゃうから、リモコンが飛んでくるように羽のついている絵を描くわけ。2000人ですよ。すごいと思った。
柴田
へぇ、ぜひ学生にそういうふうに伝えたいと思います。
山﨑
では、柴田さんにとってデザインとは?
柴田
私ですか?私も、本当に難しい。でも、今日その話を聞いて、「本当にそうだな」と思った。私の場合は、工業製品をデザインすることが多いので、ついつい「便利」だとか「簡単」だとか、商品を開発する時、そういうことにみんなの気持ちが行っちゃうんですよ。なんだけど、そういうことのためにデザインが加担するんじゃなくて、もうちょっと手触りとか人間らしさとか、そういうこと。人間らしくある毎日のために知恵を絞りたい、と思っているので。「人が人間らしくなるための知恵」みたいなことがデザインかな、と思います。
山﨑
なるほど。ありがとうございます。最後に…
須藤
最後に質問。山﨑さんにとってのデザインとは?
柴田
そうですね。
山﨑
え、僕にとってのデザインですか?これは、準備してなかったな…。なんでしょうね、デザイン。僕にとっては、それは「畏れ」みたいなものかもしれないです。僕はまだ、デザインでこれからいろいろとやっていかなきゃいけないんですけど、それは、答えがあるものではなくて、もやもやとした雲がかかった山の先みたいな感じのイメージを持っていて。僕はまだその雲を全然抜けていないんですけど、でもその山に登れるっていうことが、すごく幸せなことだなと思っていて。
柴田
なるほど。わかる、それ。
須藤
うん、わかる、わかる。
柴田
わかる。よかった。3人わかり合えたね。
山﨑
ありがとうございます(笑)。ということで、本日は、テキスタイルデザイナーの須藤玲子さん、プロダクトデザイナーの柴田文江さんをお迎えいたしました。本日はありがとうございました。
柴田
ありがとうございました。
須藤
ありがとうございました。

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