銀座四次元ポケットpresents 山﨑晴太郎の銀座トークサロン銀座四次元ポケットpresents 山﨑晴太郎の銀座トークサロン

隔週水曜19:00-20:00ON AIR

EVENT REPORT

vol.62015.07.2419:30-20:30

森岡督行 × 山崎晴太郎 / REAL TALK SALON

山崎
ラジオのほうはいかがでしたか?
森岡
楽しかったです。色々と引き出しを開けてくださって。
山崎
いやいや。今日は、実は森岡さんに何冊か本をお持ちいただいたので、リアルトークサロンで紹介していただきたいなと思っています。ラジオでも今まででいちばん心を動かされた1 冊を聞いたんですよね。
森岡
そうですね。ラジオで話した『FRONT』という対外喧伝誌です。
山崎
それも持ってきていただいているんですよね。
森岡
はい。1942 年に出版されたものなんですが、これは実際に見てもらうのがいちばんいいかなと。さっきラジオでも言ったんですが、この本を見て対外宣伝誌の収集を始めたので、非常に影響が大きかった一冊です。ということで、ちょっとこれを回覧してもらって。(本が参加者に回される)
森岡
この本について説明しますと、当時、陸軍参謀本部があって、その関係機関である東方社という編集プロダクションが作ったものなんですね。陸軍参謀本部って、当時の日本では絶大な権力をもった機関だったらしくて、そこで日本の国策が決まって、議会の承認を得ずとも推進できた。その絶大な権力を持っていた陸軍参謀本部の関係機関が作っていたビジュアル誌なんです。要は、大東亜共栄圏の正当性とか、帝国陸海軍の誇張をしていたというものなんですね。そして、当時の日本の第一線で活躍したクリエイターたちがそこに集結した。写真は木村伊兵衛が撮って、デザインは原弘というデザイナーが携わっていた本なんですね。ですが、『FRONT』についてはちょっと置いておいて、それに関係のある写真集をここで見ていただきたいと思います。
山崎
お、この本ですね。
森岡
これは木村伊兵衛の『街角』という写真集です。ご覧になったことがある方、いらっしゃいますかね?ああ、よかった。皆さん知らないようですね。
山崎
知っていると、オチが(笑)。
森岡
オチがバレバレだったらどうしようかと(笑)。今日は参加者の皆さんにちょっとお立ちいただいて、私が1 ページ目からめくっていきますので、一緒に見ていただこうかなと思います。
山崎
では、僕が本を持つので、森岡さんにめくっていただいて。
森岡
では、めくっていきます。これらの写真には、ある共通点があるんですよ。ひとつの言葉というか、なんと言うのかな。共通項があるんです。少しずつヒントを言っていくので、わかった方から座っていく、というのをやりたいと思います。(1 ページ目をめくって)これはね、一番最初の写真なので、あまり関係ないんですけど。ちなみにこの写真が撮られたのがどこか分かります?
参加者
どこだろう?銀座ですか?
森岡
ちょっと違う。でも遠くはないですね。銀座から電車で10 分くらい。
参加者
新宿?いや、新橋かな?
森岡
新宿よりは銀座のほうがたぶん近い。新橋だとやや遠い。ヒントはこの建物。これね、20 年ぐらい前に取り壊された、ある大学なんですけれども。
参加者
あ、明治大学!
森岡
明治大学。正解です。明治大学記念館ですね。なので、これは神保町。今の三省堂書店のあたりですね。こっちがすずらん通り。これが、明治大学のリバティータワーのあるところ。これはたぶん当時の住友銀行だと思うんだけど、これの上から撮っている。この写真で見てほしいのは、ここにちょっと写っているビル。これが野々宮ビル、あるいは、野々宮アパートと呼ばれていたんですけど、ここで『FRONT』を作っていたんですよ。だから、木村伊兵衛はこのビルを写真集に入れたかったんだろうな、と。さて、ここからが本題です。このあたりの写真から共通項を見出していただきたい。
山崎
ああ、そうですね。だいぶきてますね。
参加者
晴太郎さんも分かっているんですか?
山崎
僕は分かっています。ここに来るまでのタクシーで聞いちゃいました。
森岡
この本のあとがきに答えが書いてあるんですよ。さあ、なんでしょうか?これはなかなか盲点なんですよ。木村伊兵衛ってものすごく有名な写真家じゃないですか。木村伊兵衛賞があるぐらい。だけどね、これは意外と触れられていないですよ。私も最初に知ったとき、目から鱗で。今でこそ、知ったかぶりをしてこんなことを言っていますけど。思わず膝を打ちましたね。
山崎
なるほど、と。
森岡
この写真くらいから、だんだん本領発揮ですね。写真の中の人に注目してみてください。この人物ですよ。人物の一人ひとりを見ていくと、見えてくるなにかがある。
山崎
なにを軸に人を撮っているのか、という話ですね。
参加者
どう撮っているかではなく?
山崎
どう撮っているかではないですね。カメラが人のなにを見ているか。
森岡
難しい。この写真なんかも象徴的なんですけど。これはこれでちょっと衝撃的な写真で、両国花火なんですが、キャプションを読むと1945 年8 月1 日って書いてあるんですよ。
山崎
終戦の2 週間前。
森岡
そうなんです。その時期に花火をやっていたんだ、という。こんなことをやっている場合じゃないんじゃないかと思うんですが。どこかに逃げたほうがいいんじゃないかという話なんですけれども。意外と普通に花火をやっていたんだなと驚きました。
参加者
こんなところを空襲されたら、どうするつもりだったんだろう。
森岡
本当ですよね。自分は普段、茅場町で仕事しているんですが、おばあちゃんにお話を聞いたら、「最初の空襲は花火みたいできれいだった」って…。なんて言うんですかね。自分たちが持っている空襲のイメージとちょっと違うところが垣間見られて、興味深かったんですけれども。まあ、それはそれとして、最後までめくっていきますね。
参加者
全然わからない。
森岡
わからないですよね。では、正解を。答えがあとがきに書いてあるので、晴太郎さんに読みあげてもらいます。
山崎
ここですね。《木村伊兵衛はおびただしい数の人物写真を残したが、それらを一貫して特徴づけたものは〈手〉である、と木村自身が種明かしをした。「手は人間の一部として感情を伝え、意志を表現する重要な手立てなのだ。手の動きのなかからでも、一瞬にその人の性格を美しくも現実的にも表現できる。(とりわけ)女の手は単独でも、空間処理をうまくすると、あやしさ、なまめかしさ、年齢や職業を表現できる」と彼は語った。》
参加者
なるほど!手とは思わなかった。
森岡
それが木村伊兵衛のすごいところだなと思いました。
山崎
すごいですね、それは。
森岡
初出は自分の調べたかぎり、1932 年の『光画』という写真雑誌があったんですが、その3 号に木村伊兵衛の写真が出ている。その時、木村伊兵衛は30 歳でした。彼は1974 年に鬼籍に入るんですが、大体キャリアの最初から最後まで〈手〉しか撮ってなかった。木村伊兵衛の本質というか、すごさだったと思いますね。
山崎
僕は写真専攻だったんですが、まったく知らなかったですね。毎年、立教大学の写真専攻の後輩たちに授業をやっているんですが、今年はこれをテーマにやります。
森岡
ぜひ使ってください。この見解ってもっともっと広げていいと思いますよね。
山崎
これはいい2 冊の組み合わせですね。
森岡
この『FRONT』もすごいじゃないですか。ビジュアル的にも、デザイン的にも。「これが昭和17年ですか?」みたいな。ところが、「ビジュアルがちょっとおかしいぞ」と思った瞬間があったんですよ。これは、表向きは大東亜共栄圏の正当性と帝国陸海軍の誇示なんですよ。圧倒的なデザインと迫力のある写真でプロパガンダされる、みたいな。だけど、おかしいんですよ。なにがおかしいかと言うと、この写真がおかしいんですけれども(大砲の銃身が写っている写真)、なんでこれを使えるのか、という。なぜこれを敵国であるソ連とかアメリカとかイギリスに配るのか、という話なんですよ。当時こういう写真は不許可写真で撮ってはいけないはずなんですね。
山崎
つまり検閲が通らない?
森岡
「こういう軍装です」とか「こんなふうな戦闘機を使っています」とか「こんなふうにして迎撃しています」とか。これの口径を測ったら何メートル飛ぶ、とか研究されてしまうはずなんですね。だから、私がソ連やアメリカの将校だったら、これが配られてびびるかと言えば、さしてびびらなくて、やっぱり分析に使いますよね。「ここに、すべてが書いてあるぞ」と。それで怪しいなと思っていて。だから、もしかしたら、これを使って当時の共産主義者や反戦主義者は、敵に諜報していたのではないか、と思ったんですね。しかも陸軍参謀本部のものだから、特別高等警察の力が及ばない。
山崎
なるほど。すごく興味深いですね。
森岡
この写真も一応、大東亜共栄圏の話なんですけども、なんにも先入観なく見たら、アジアの共産化のポスターみたいに見えませんか?
山崎
本当ですね。
森岡
これを実証しようとして頑張ったんですが、実証できないですね。当時『FRONT』を作られていたデザイナーの多川精一さんにも、何年か前にインタビューを申し込んだんですよ。でも、その時には入院されていて…。
山崎
それは残念でしたね。ちなみに、対外宣伝誌ということは、海外で配布されているということですね?
森岡
何部くらい配布されたのかはわからない。もしかすると、九段下の東方社に塩漬けにしてあったのかもしれないし…。
山崎
売っているわけではないんですよね?
森岡
海軍号の日本語版だけ売ったんですよ。今日持ってきているこれは陸軍号なんですが。
山崎
なるほど。僕もほしいな。今日は他にもおすすめの本を数冊持ってきていただいたんですが、ご紹介してもらってもよいでしょうか?
森岡
はい、これは晴太郎さんに薦めたい1冊というテーマで直感で選びました。
山崎
すみません、無理難題を言ってしまって(笑)
森岡
いえいえ、直感なんですが、晴太郎さんはものをデザインする、つくるっていうのが本職だと思うので、その「もの」ってなんなんだっていうテーマで、堀江敏幸さんの『もののはずみ』という本を。
山崎
おお。
森岡
「ものを所有することってなんなんだろう?」っていうことを自分も考えていたことがあったんですよ。それをこの本で堀江さんが、ずばり言い当ててくれたという。
山崎
僕も本が好きなんですが、この本は知らないですね。うれしい。
森岡
どこに書いてあったかな。あ、ここです、ここ。ちょっと読んでいきますね。《昨日は気づかなかった魅力を発見し、惚れ直すことだってある。ものがどんなふうに弾むかなんて、人との出会いや付き合いに似ていて絶対に予想できないのだ。そういうわけだから、気が向いたら取りあえず買ってしまえばいい。あとでブツブツ文句を言っても後悔したりしてみても始まらないのである。ものに出会って、自分の生活の中に引きいれたら、あとはそれを育てる。ものたちの弾みは、いわば必需品と不用品の間にあって、なお存在を否定されるようなところから飛び出してくるのだ。そのとき初めて、ものを所有するのではなく、もののある空間に自分を活かすことができるのだろう。》という、この最後の一文が。
山崎
おお、これはすごい!
森岡
「まさに、その通りです」っていう。ものをつくる人とか、ものを集める人たちの気持ちをすべてここで表してくれている気がして。堀江さん、すごいなっていう。
山崎
これおもしろい。この本、絶対買います。人に本を勧めるっていいですね。
森岡
そうですね、押しつけがましくない範疇で(笑)
山崎
僕、『鬼平犯科帳』が好き過ぎて、その一巻をありとあらゆる人にあげまくるっていうことをしていたんですよ、大学時代。「もらったら読まざるを得ないだろう」みたいな。だから、けっこう押しつけ型ですね(笑)
森岡
でも、本を贈るって、やっぱり素敵なことですよね。
山崎
本当にありがとうございます。
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