2019.04.21
後藤 治 vol.2
重要文化財が遺り続ける理由
重要文化財というのは、文化的な価値づけから指定されるということですが、頻繁に人が訪れ賑わっている所とそうではない所が存在しているといいます。重要文化財が多い神社仏閣は、初詣など生活に密着していて、人と繋がり続けているからこそ遺り続けているようです。そのため後藤さんは、文化財としての価値だけではなく、使い方を提示することが必要だと考えているようです。
例えば東京駅丸の内駅舎は、重要文化財に指定さていますが、特にそんな意識を持たずに多くの人が利用している施設。観光地化するだけではなく、その建物が活きる形で使用する“稼働遺産”としていく動きが、徐々に広がっているそうです。
ちなみに、この稼働遺産という考え方がアジアで最も進んでいると後藤さんが感じているのが台湾。古い町並みを“老街”と呼び、結婚するカップルが老街の古い建物の前で記念撮影するのが一般的なのだとか。日本が統治していた頃の建物も大事にし、国や自治体で文化的な価値を守ろうという意識が高いようです。
富岡製糸場の世界的価値
2014年に世界遺産に登録をされた富岡製糸場は、フランス人の指導で造った日本で最初の本格的な大規模工場。日本が近代国家として動き出すきっかけとなった、価値のある建物です。
しかし、これだけでは世界遺産に登録されるものではないと後藤さんは言います。富岡製糸場が稼働していた当時、ヨーロッパの養蚕産業で病気が流行り壊滅的な被害を受けたという事件がありました。その時に、ヨーロッパのシルク市場を救ったのが富岡製糸場を中心とする日本からの輸出。こういった背景から、世界的な物語の一端になったことで、世界遺産としての価値が認められたそうです。
世界遺産だけでなく、文化財としても遺り続けるには、こういった物語とリンクする運を持っていなければ難しいようです。
街並み保存への取り組み
自治体からの要望を受け、全国各地の街並み保存に関わることも多いという後藤さん。なかでも、秋田県横手市増田町とは10年以上の関わりがあり、変化していく様子を近くで見てきたようです。
街の中にある古い建物を活かしながら街の元気を取り戻すという取り組みですが、観光客が増えたことで街にカフェが出来、次はそのカフェが人気になり、また人が集まってくるという好循環が生まれているのだとか。
その様子を一緒に体感できている事に、魅力を感じているということでした。
今後の目標
現在、後藤さんが関わっていることに、防災企業と一緒に取り組んでいる、茅葺屋根に火が点いた時に延焼を最小限に留める技術というのがあるそうです。茅葺は環境に優しいということで、海外で見直されているということで、国内だけでなく海外にもこの技術を発信していきたいと考えているそうです。
この茅葺のように、伝統を別の角度から再評価されるような社会にしていきたいと思っているという後藤さんでした。
文化百貨店で扱いたいもの
ゲストの方に最後にお聞きしている“文化を扱う架空の百貨店でバイヤーをするなら?”という質問に後藤さんは「古民家など古いモノを直す相談窓口を作って、地方の歴史的価値のある空き家を紹介する場所」とご回答。
歴史的価値のある建物が、少しでも次代に遺していきたいと考えていらっしゃるご様子でした。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、漫画家の浦沢直樹さんをお迎えします。
今週の選曲
後藤さんのリクエスト
(I Can’t Get No)Satisfaction / Oscar Peterson
山崎晴太郎セレクト
蛍光晶 / 川上統