2019.05.05
浦沢直樹 vol.2
キャラクターづくり
登場キャラクター=演者として向かい合っているという浦沢さん。最初に出会った名役者は『YAWARA!』に出てきたお爺ちゃんこと猪熊滋悟郎。漫画家として本格的にシゴトをしていく時期に差し掛かっていた浦沢さんに、“キャラクターがドラマを切り拓いていく”ということを教えてくれた存在だと言います。
猪熊滋悟郎をはじめ個性的なキャラクターが物語を引っ張って行くというのが浦沢さんの漫画のようですが、キャラクターの設定は決めるのではなく“そこに居る”のだとか。こう行動して欲しいと思っても、キャラクターに合わない行動ならば「私は、そういう事をしない」と主張をしてくるのが、浦沢さんにとって良い登場人物。そういった曲者が集まってこそ、ドラマも面白くなってくるようです。
漫画家の仕事の範疇
連載を抱えている漫画家さんは多忙を極めている印象があるかと思いますが、それは単にスケジュールの問題だけではなく、映画に例えるなら演出家、美術、カメラなどなどすべての役割を作者が担うので、1話を創り上げるまでに経る工程が多岐にわたるようです。さらに登場キャラクターの演技を描くということは、自らの演技力を問われるということで、裏方から出役までやるべき事が非常に多い職業だと言えそうです。
そのためアシスタントを抱えて負担を減らすというのが人気漫画家さんのスタイルのようですが、浦沢さんは現在アシスタントさんを2人にまで絞っていると言います。その理由は、もともと自分の原稿を人に託すことにどうしても抵抗があったから。
少し時間的な余裕が出来たからこそ、「全部自分で描きたい」ということで、極力アシスタントさんの手に委ねない形で作品をつくっているそうです。特に新連載中の『あさドラ!』は背景や仕上げまでご自身で描かれたページが多いとのことで、各シーンの作画自体にも注目です。
見開き漫画の美学
デジタル化される漫画も多くなってきていますが、デバイスの変化についても浦沢さんにお伺いしました。自身も影響を受けたという手塚治虫さん以降、漫画は“見開き”という、雑誌や単行本を開いた状態の2ページ単位でどう構成・演出するかを前提に、その技術が高められてきたと言います。しかし、現在のスマートフォンでの漫画配信となると、見開きでの演出が半分になったり小さくなったりしてしまい、作者が本来意図した魅力を発揮できないと感じているご様子です。
そして、B4サイズの原稿が雑誌上ではB5に、単行本ではB6サイズに縮小され、それだけでも迫力がかなり削減されているのに、スマホの画面だと、更なるスケールダウンとなるという点も気になっているようです。
ただコマを縦に配置するだけの縦スクロール漫画のように、従来の漫画と比べて表現の幅が退化してしまった例もあり、これからはデジタル配信に適した新しい漫画の形を、漫画家たちが開発していかなければならないのではないかと私見をお話してくださいました。
文化百貨店で扱いたいモノ
毎回ゲストの方に伺っている“文化を扱う架空の百貨店でバイヤーをするなら?”という質問に、「本屋とペン先を守れ!」と浦沢さん。
街から書店が減っていること、アナログで漫画を描くために必要な画材を売るお店も作る会社も減っていることを気にかけているとのことで、「本屋と画材を守るアナログな空間を作れたら」というのが浦沢直樹さんのお答えでした。
ビッグコミックスピリッツで連載中の『あさドラ!』第1巻、19年ぶりとなる短編集『くしゃみ 浦沢直樹短編集』が絶賛発売中です。ぜひ本屋さんで作品に触れて、浦沢さんの情熱を全身で感じてください!
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、国立国際美術館副館長の中井康之さんをお迎えします。
今週の選曲
浦沢直樹さんセレクト
漫勉 Album ver. / 浦沢直樹
山崎晴太郎セレクト
Flametop Green / Daniel Lenois