2019.05.19
中井康之 vol.2
映像作家フィオナ・タン
2014年に中井さんが担当されたのが『フィオナ・タン まなざしの詩学』という展覧会。インドネシア出身のフィオナ・タンは、父が中国系インドネシア人、母がオーストラリア人というクロス・カルチャーの環境で育ち、自らのアイデンティティを主題とした作品で注目を集めたという女性映像作家。
ヴェネツィアのビエンナーレで、フィオナ・タンの展示を見たという中井さん。多くの人の注目を集める作品の裏にあった、ポートレートサイズの作品を見て「いつか、この作家で展覧会をやりたい」と思ったのだとか。その作品は、一見スチール写真と見間違うような形で、人物を映しているのですが、じっくり見ていると、その人物の背景が映し出されてくるというもの。
そのコントラストに魅了された中井さんは、そこから、本人が来日したタイミングで声をかけるなど長くコンタクトを取って実現した展覧会だと言います。
クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime
つい先日、5月6日まで開催されていたのが、山崎も現地で鑑賞した『クリスチャン・ボルタンスキー − Lifetime』。ユダヤ系フランス人のボルタンスキーは、幼い頃から同胞がいかに過酷な仕打ちを受けたかを耳にし続け、その時のトラウマが創作の源になっているとうアーティスト。
「美術館はエンターテイメントの場所ではなくなっている。祈りや信仰、あるいは真剣に物事を考える場所として、私は機能させたい」という言葉を残しているという方です。
実際に見てきた山崎の感想も「もの凄く好きというわけではないけども、観なければならない」というもので、ボルタンスキー自身が感じる生と死が表現されているものだと言います。
国立国際美術館での展示は終了してしまいましたが、6月12日から9月2日まで六本木の国立新美術館、その後には長崎県美術館でも開催されます。
『クリスチャン・ボルタンスキー – Lifetime』ホームページ
https://boltanski2019.exhibit.jp/
国立国際美術館の次の展示
中井さんの同僚の学芸員の方が手がけた展示が、5月25日から国立国際美術館で開催となります。1つは『抽象世界』。20世紀末から21世紀初頭まで美術界では、具象系の作品が世界的に中心となっていたそうですが、ここ数年、抽象的な作品が広がりを見せているといいます。そんな抽象絵画の今現在の状況を紹介するのが、『抽象世界』という展覧会。
そして同時開催されるのが、『コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅰ』。スランプの陥っていたジャコメッティから「モデルにしたい」と言われ、その創作意欲の復活に一役買った日本人の哲学者・矢内原伊作。そのエピソードは知られていたものの、日本にはこれまで、矢内原さんをモデルにした作品が入って来なかったそうです。2018年に矢内原さんをモデルにしたジャコメッティの作品が、国立国際美術館に収蔵され、そのお披露目をかねた展覧会ということです。
次から次へと興味深い現代美術展が開催されている国立国際美術館。大阪へ行かれた際には、ぜひ一度訪れてみてください。
国立国際美術館ホームページ
http://www.nmao.go.jp/index.html
文化百貨店で扱いたいもの
番組でゲストの方に最後にお聞きしている“文化を扱う架空の百貨店でバイヤーをするなら何を扱う?”という質問に中井さんのお答えは「変わったもの」。
学生時代、古本屋さんで図録を手に取ってパラパラと見ていると、見覚えのあるいたずら書きを発見した中井さん。それが、沢野ひとしさんが書いたものだと本屋さんのおじさんに言われ、すぐに購入したといいます。
そんなご自分の体験から、作家やアーティスト、学者などがいたずら書きやメモとして書いた部分がある本を集めて販売するような場所が出来たら良いなと話してくださいました。
たっぷり2週に渡って現代アートについてお伺いしてきましたが、ここで今週の文化百貨店は閉店。次回は、アマダナ株式会社代表の熊本浩志さんをお迎えしてお送りします。
今週の選曲
中井康之さんのリクエスト
Waltz for Debby / Bill Evans Trio
山崎晴太郎セレクト
The Köln Concert / Keith Jarret