2020.10.04
内田英治 vol.2
『ミッドナイトスワン』でのキャラクターの作り方
撮影前は、主演の草彅剛さんに、テーマとなっている「トランスジェンダーやナイトクラブのカルチャーのことを勉強してもらって、めっちゃリハするぞ!」というモードだったという内田監督。しかし、草彅さんが感受性の高い人だと感じ、細かいリハーサルは必要ないと判断したそうです。
また、当初は、主役の凪沙に”極度に女性っぽい”イメージを考えていたという内田監督ですが、撮影を進めていくうちに、草彅さんが持つ人格のようなものが凪沙の中に入っていき、内田監督が抱いていたキャラクターとは全く別のものになっていったのだと言います。
当初のイメージとは違っていったものの、現場でキャラクターが変化していくことこそ「映画っぽさ」だと感じているとのことで、この変化が作品を良い方向に導いたとも感じている様子です。
反して、ヒロイン役を演じた服部樹咲さんは、今回がデビュー作。ベテランの草彅さんとは違って、こちらはしっかりとリハーサルを行ってから、本番に臨んでいたようです。現場で揉まれることで、普通の中学生から“女優”になっていく面があったようですが、『ミッドナイトスワン』では、普通の面を活かすために女優として開花していく部分を抑える演出を意識されていたということでした。
丹念な取材によって集められたエピソード
『ミッドナイトスワン』の脚本を執筆するにあたって、何十人もののトランスジェンダーの方や中学生でプロのバレリーナを目指している人から話を聞き、実際にお店にも顔を出したりして丁寧に取材をしたという内田監督。作中に出てくるエピソードは、すべて実話を基にしていると言います。
一方で、実話をベースにしているものの「重苦しい映画にはしたくなかった」とのことで、娯楽性を意識しながらアレンジをしたりエピソードを選択していったそうです。
そして、映画では取り上げられなかったサイドストーリーを中心に書かれたノベライズも発売されています。こちらは、映画の撮影後に執筆されたそうですが、脚本と違い感情的な部分を書くことが「めっちゃ大変」だったのだとか。
しかし、映画では1分ほどしか出演のないキャラクターの話を出すことが出来るなど、書き手としては面白さもあったようです。映画『ミッドナイトスワン』の世界観をもっと堪能されたい方は、ぜひノベライズも手に取ってみてください。
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167915230
映画への想い
『ミッドナイトスワン』を、普段アートハウス系の映画を見ない人たちに見て欲しいという内田監督。日本映画は、大作に一点集中する傾向があるので、もっと色んな映画を見てもらいたいと感じているようです。
このような、日本映画界への想いがある一方で、撮影中は「別の国の映画」というようなイメージで撮るようにしていると言います。その理由は、作品を海外に出していきたいから。自身のような立ち位置の監督は、日本国内だけでは難しいので、映画祭などを通じて海外でも展開していきたいということでした。
山﨑晴太郎とコラボレーションするとしたら?
内田監督は、山﨑晴太郎とコラボレーションするとしたら「映画とCMの連動。例えば、役者が一緒で……みたいな」というイメージが沸いたようです。日本のCMのクリエイティブチームは優秀だと感じているそうで、「単独感が強い」と考えている映画と連動したら面白いものが出来るのではないかと思ったそうです。
また、文化を扱う架空の百貨店でバイヤーをするなら、「需要が無いけど面白い映画」を扱いたいということ。そんな映画を、世に残すためにも、文化百貨店にそういう映画を取り扱う一角が欲しいとのことでした。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。内田監督の最新作『ミッドナイトスワン』は、絶賛上映中です。まだ、ご覧になっていない方は、ぜひ劇場でご覧ください。
https://midnightswan-movie.com/
次回は、ロンドンを拠点に活躍されているアーティストの猪瀬直哉さんをゲストにお迎えします。
今週の選曲
内田英治さんセレクト
Everybody’s Talkin’/ Harry Nilson
山崎晴太郎セレクト
Filima Solo/ Gabriel Olafs