2020.10.11
猪瀬直哉 vol.1
アーティスト猪瀬直哉の原点
お父様が円谷プロでウルトラセブンの撮影に携わっていたという猪瀬さん。その影響で、家にあったSF関連の資料やH・R・ギーガーの画集を真似て絵を描くような子供だったと言います。そこから東京藝術大学油絵科を経て、ロンドンに留学をされていく猪瀬さんですが、影響を受けた作品や人物を伺ってみると、「ジョージ・ルーカス大先生、スタンリー・キューブリック大先生、桜庭和志大先生。あと、大学の恩師で中村政人先生」と様々。
多感な時に触れた“表現や生き様”に影響を受けた面が大きいようです。中でも、『スターウォーズ』には特に影響を受けたようで、作品の背景を描きたくて、スターウォーズのVFXを担当したIndustrial Light& Magic(I.L.M)に直接問い合わせ、希望するセクションの担当者と面談まで取り付けたのだとか。
I.L.Mへの就職は実現しませんでしたが、ジョージ・ルーカスをはじめとする自身の人生に影響を与えた人たちと、自ら道を切り拓いていくバイタリティーが、猪瀬さんの制作の原動力になっているようです。
自然と人間の関係への問い
国内外で注目を集める猪瀬さんの作品ですが、「自然と人間との不調和な関係性」というテーマが込められていると言います。
このようなテーマにたどり着いたきっかけの1つが、カンボジアにリサーチに行った時だったようです。観光地となっているアンコールワットには内戦の痕跡が残っているにも関わらず、訪れた人たちがピースをしながら記念撮影をしているシーンを見て「なんだろうこれは?」という違和感を覚えたそうです。
また、カンボジアのジャングルの中で、貧しいながらも生き生きとしている子供たちの姿を目の当たりにし、「日本人として生まれた、自分には何が出来るんだろう?」と自問自答したことも大きなターニングポイントになったようです。
作品のモチーフ
9月23日まで、猪瀬さんほか4名のアーティストの作品を集めた『TIMELESSNESS』展が、GINZA SIXにあるギャラリー、THE CLUBで開催されていました。
TIMELESSNESS展:http://theclub.tokyo/ja/exhibitions/timelessness/
この展覧会で猪瀬さんは、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』からオマージュされた、白いコンクリートの上にブロックが立っている【モノリスシリーズ】の作品を出展されていました。この【モノリスシリーズ】や、【ペンギン】【テレビのカラーバー】など、猪瀬さんの作品には繰り返し出てくるモチーフがあります。
中でも、ペンギンはセルフポートレートの一環に近い存在のようで、ドキュメンタリー番組で見た「寒そうなところで助け合い、羽があるのに鳥なのに飛べないペンギン」の姿が、「整備された国に生まれて、教育水準も高い、パスポートも最強なのに外に飛んでいくことができない自分自身」とリンクした事から生まれたものだと言います。
そのフラストレーションを描いているということで、ペンギンが横にある波風が立っていないスイミングプールをぼんやり眺めていたり、プールに水が入っていない作品など、日本人(自身)へのメタファーを描いてきたそうです。
猪瀬さんの作品は、Webサイトで公開されていますので、今回のお話と合わせて下記のリンクから作品をご覧になってください。
https://www.naoyainose.com/works
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回も猪瀬直哉さんをお迎えしてお送りします。
今週の選曲
猪瀬直哉さんセレクト
Why does my heart feel so bad? / Moby
山崎晴太郎セレクト
Of Mystic Dreams / Charichari