2020.11.08
栗原聡 vol.1
現時点でのAIの技術
人工知能・AI研究の第一人者で、大学での研究や指導などをされている栗原教授。“人工知能・AI”と聞くと、目新しい言葉と思いがちですが、65年ほど前にはこの言葉があったのだとか。コンピューターの開発と歩調を合わせるように発展していった分野なのだと言います。
また、現在は“第三次人工知能ブーム”と言われているそうです。これまでの2回のブームは、技術にインフラが追い付いていなかったので、ブームがすぐに下火になったという歴史があるようですが、今回はコンピューターの処理能力がアップして技術を使えるようになったので、研究者だけではなくビジネスサイドやエンジニアリング界隈でも話題になっているようです。
人工知能というと自ら考えて行動するものを想像しがちですが、栗原教授は「現在のAIは、IT技術の延長線と思った方が良い」とのことで、電卓の延長上にあるものなのだとか。AI脅威論なども囁かれていますが、現時点では人間が使いこなすしかなく“便利な道具”程度に考えおくのが、ちょうど良いようです。
栗原教授が目指すAI
現在、人工知能=AIと呼ばれているものも、まだまだ道具の域を出ていないということですが、栗原教授は命令されてから動くのではなく、忖度のできる”気の利く相棒”のようなAIを作りたいと考えていらっしゃるそうです。
その1つが、人間が無意識のうちに起こしている行動パターンを読み取り、そのパターンをロボットが認識し、人よりも少し先に行動するという『デスクトップ作業支援システムAIDE』。例えば、ホチキスが欲しいと思ったタイミングで、先にホチキスを用意して持ってきてくれるというものなのだとか。
また、みじん切りなど料理の過程で面倒に感じたりする作業を、手伝ってくれるアシスタントロボットも研究開発されていて、便利というだけではなく、料理をする楽しみを保ちながらお手伝いをしてくれるロボットを目指して研究を進めていると言います。
栗原教授が目指す人工知能は、本当の意味で人間と”相棒”という関係になれるものだそう。単に目的を果たすための道具ではなく【メタ目的な行動】、つまり人間の行動の意図を読み取り、人間を支えるような自主性を持つロボットが必要だと考えているのだとか。
例えば、来客前に部屋の片づけを頼んだ時に、窓のサンを掃除し始めるのではなく、目立つ部分の片づけを優先できる気の利いた相棒にするためには、このメタ目的を理解できるAIを目指していらっしゃるのだそうです。
世界初AI×人間のコラボレーション『TEZUKA2020』
『TEZUKA2020』は、手塚治虫さんの作家性を蘇らせるというプロジェクト。栗原教授はAI技術の監修で参加をされました。現在のAI技術では、クリエイティブは苦手な分野ということで、人間にとっても難しい“0からの発想”のきっかけになる部分を生み出すことに焦点を当てて、AIを役立てたと言います。
とは言え、手塚治虫作品を読ませようにも、AIは漫画を理解できないため、人間がノベライズ化したものを読み込ませストーリーを学ばせたのだとか。そういった苦労を重ねながら、AIが100個のあらすじを作り、プレゼンをし、そこから作られたのが『ぱいどん』。
実は、栗原教授をはじめとするAIチームが出来の良いと思っていたものではなく、奇抜だと感じていたあらすじが採用されたのだとか。これには、手塚治虫さんのご長男であり、TEZUKA2020の総監督的な役割を果たした手塚眞さんの意向が大きかったようで、創造性を掻き立てるには、完成されたものを与えられるのではなく、粗削りな部分を埋め合わせるようなことが必要という理由があったそうで、この言葉に「人間と共存する人工知能を作るには完全なものを作ってはダメかもしれない」という風に考えさせられる出来事だったようです。
このようにAIが生み出したあらすじとキャラクターデザインを基に、人間が展開とコマ割りなどの作画を行い完成した『ぱいどん』。下記のサイトで公開されていますので、未読の方はぜひご覧ください。
https://tezuka2020.kioxia.com/ja-jp
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次週も栗原聡教授をゲストにお迎えしてAIとヒトの関係性についてお伺いしたいと思います。
今週の選曲
栗原教授セレクト
空が高すぎる/小田和正
山崎晴太郎セレクト
We wanted less / Nick Zammuto