2021.01.03
濱崎加奈子 vol.1
新年あけましておめでとうございます。2021年の文化百貨店は、番組初のロケからスタート。京都の気になる方の所にお邪魔をして、インタビューさせていただきました。文化百貨店の京都シリーズ初回のゲストは、伝統文化研究者の濱崎加奈子さん。今回は、濱崎さんが館長を務める有斐斎弘道館でお話を伺いました。
有斐斎弘道館と歩み続ける日々
有斐斎弘道館は京都御所の西側にある、数寄屋建築と庭園が印象的な施設。京都市内で1日に2軒以上のペースで町屋が取り壊されている中、取り壊し目前で保存を実現し、この場所のルーツに倣い新たな学問・文化サロンとして活用されています。
【山崎】今回は、濱崎さんが館長をされている有斐斎弘道館にお邪魔をしています。今、庭を見渡しながらお話をしているんですけども、素晴らしいですよね。元々は、どういう建物だったんでしょうか?
【濱崎】皆川淇園さんと言う江戸時代の有名な学者で芸術家だった方が主で、今でいう大学のような学問所だったんです。ですが、この辺り一帯が火災に遭い、建物を明治から大正にかけて再建したので、お茶室があってお庭があるという感じですね。
【山崎】季節の関係性とかを大事に木造建築は造られているんですけど、それが肌感として凝縮されていますよね。
【濱崎】すごいですよね。この日本の庭と日本の建物ってね。
【山崎】中のお座敷に行くと御簾がかかっているんですけど、御簾がこんなに美しいってみんな知っているのかな?御簾越しに外のお庭の木々が影として映りこんでいるんですよ。すごい画だなと思うんですけど、感じるのは外の冷ややかな雰囲気とかなんですよね。
【濱崎】1日の中でも朝から夕方まで全然違っていて、夕方も良いですよ。ちょっとずつ、影が障子や畳に映ったりして。
【山崎】今は、どういう風にこの建物を使われているんですか?
【濱崎】”芸術文化サロン”という形で、日々運営を行っています。「江戸時代の人にとって学びって何だろう?」と考えたんですよ。机に向かっているだけじゃないかもしれないと思って、色々調べたところ、芸能文化から色々学んでいるということが分かったんですね。
【山崎】そうすると、お茶やお香を集って学んでいくような使い方ですかね?
【濱崎】そうですね。まず、楽しむことによってこの場所が「素敵やな」と思ってもらえるというのが第一歩かなと思っています。
【山崎】昔からある建物を残していこうという話って、日本中にたくさんあるじゃないですか。「学問所として現代に」という事を仰っているんですけれども、そこまでたどり着くって大変じゃないですか?
【濱崎】色々な方に相談もしましたし、企業や行政も訪問しました。でも、リーマンショックの後ということもあって、うまく話しが進まなくて心が折れそうになったんですけど、「これでは稼ぐことができない」という言葉を聞き続けて逆に発奮したというかね。そんな事を言っていたら、私たちが得ているこの文化の豊かさというものが1つも繋いでいけないと。そんな中、老松というお菓子屋さんに一緒に残せる方法を相談して、一時保存という形が実現しました。建物は壊したら終わりなので、一日でも長く一緒に歩んでいくという事で、11年経ち、「ようやって来たな」と思います。
「手のひらの自然~京菓子展」を通して伝えたい京菓子
京菓子の見た目だけでなく、その奥深さに魅了されたという濱崎さん。「手のひらの自然~京菓子展」を有斐斎弘道館で毎年開催されています。
【山崎】有斐斎弘道館では2015年から「手のひらの自然~京菓子展」を毎年開催されていますけれども、これはどういった催しなんでしょう?
【濱崎】とにかく私が、京菓子が好きなんですね。伝統文化を広めていくという活動の中で、京菓子は入り口が広くて、奥深い「これぞ日本文化や」と思っていたんです。ところが、最近は「これが京菓子だよね」というのが、かなり薄れてきている部分があるので、「もう一度、新しい形で捉え直そうよ」という運動のような形だと思っています。
【山崎】京菓子って、簡単にご説明いただいても良いですか?
【濱崎】“有職故実、儀式典礼に用いる菓子”“茶道に用いる菓子”という定義はあるんですけど、「じゃあ何?」という事ですよね。言葉で隅々まで表現できるかというと、定義できるものとは限らない。線引きが感覚だけで良いかというと違うとも思うし、教養深いものでもありますし、何とも言えないんですけど……。
【山崎】文化ってそういうものですよね。特に日本文化は、曖昧さを是とするというか。
【濱崎】そうですね。そういうことをこの場所で語り合いたいという感じですかね。
【山崎】純粋に面白いし、過去と対話している感じもあるし、「日本人で良かった」っていう風にも思えますもんね。去年、クラウドファンディングもされていましたけど、何かきっかけはあったんですか?
【濱崎】やはり、きっかけはコロナですね。建物を守ろうというのもあるんですけど、今回は京菓子展を続けたいという気持ちでさせていただきました。このような機会があったおかげで、京菓子展を知っていただけた方も多くおられましたし、それによって、この場所に、こんなにたくさんの人に思いをかけられているということを改めて知ることができましたので「長いこと続けないとな」と、心を新たにしたということはありましたね。
未来を意識した伝統文化の再興
有斐斎弘道館の館長としての活動の他、伝統文化研究者として様々なプロジェクトに参加されている濱崎さん。2015年に、550年ぶりに再興された『糺勧進能』にもプロデューサーとして参画されました。
【山崎】『糺勧進能』は建物とかではないから、大変ですよね。
【濱崎】これは、すごく大変だったんです(笑) 550年前に足利義政公の前で、鴨の河原でお能をしたという文献がたまたまあって、図面が残されていたんです。学術的には議論があるんですけど、下鴨神社さんも式年というタイミングでもあり、“勧進”という「みんなで直そう」というコンセプトも素晴らしいなというのがあってさせて頂いたんです。
【山崎】どんな感じでプロデュースされていくんですか?
【濱崎】立体的に起こすには、分からない所がいっぱいありますから、文献だけで全てを再現する事は出来ないんですよね。その中から、今の時代に「あったらいいな」、「必要やな」というポイントをまず抽出していくということと、予算や場所といった制約がある中で、『糺勧進能』だったらどこの部分を根本に持ってくるか、どこを再興すれば未来に繋がって行くかというポイントを探して、今できることと組み合わせていくという感じですかね。
【山崎】まさにプロデューサーっていう感じですよね。日本文化って脈々と培われてきていて、それを「現代とどう繋いでいくのか?」が、大事なファクターだと思うんですが、そこで意識していることはありますか?
【濱崎】やっぱり未来を意識する事ですかね。過去にあったことの「これが根本だ」というのがあって、今の地点がある。その地点を見ないと、未来の方向を作れないと思います。一度違ってしまえばかなり方向が違いますから。
【山崎】未来があって、過去があって、点と点を繋いだここに今があるみたいなそういう考え方ですかね。
【濱崎】そうですね。それを、私が勝手に大っぴらに言って良いのかは分からないですけども(笑) 少なくとも自分が信じられることからは動かないようにはしていますね。
【山崎】ありがとうございました。有斐斎弘道館は予約をしていただけると、普通に遊びに来ることができるそうなので、色々な状況がある中だとは思いますが、京都にお越しの際は、ぜひ遊びに来てみてください。
有斐斎弘道館Webサイト:https://kodo-kan.com/
といった所で、今回の文化百貨店は閉店となります。来週も京都にある有斐斎弘道館から、濱崎さんが研究されている伝統文化について伺っていきます。
今週の選曲
濱崎加奈子さんのリクエスト
Bravo pour le clown/エディット・ピアフ
山崎晴太郎セレクト
Conversations/ ChristophBerg