2021.03.14
奥秀太郎 vol.1
3月14日文化百貨店のゲストは、映画監督/映像作家の奥秀太郎さん。今回は、キャリアの原点となった舞台の映像演出や、演出を担当された舞台作品『VR 能 攻殻機動隊』について伺いました。
VJから舞台の映像演出へ
奥さんは映像作家として、東宝ミュージカル、NODA・MAP、宝塚歌劇団、大人企画など1000を超える舞台作品の映像演出を担当されています。
【山崎】映像表現ってなり方が難しいじゃないですか。どういう感じで、ここまで来たんですか?
【奥】今でいうVJをやっていて、クラブイベントに色んなバンドを呼んでいたんですよ。そこにグループ魂をお呼びした流れの中で宮藤官九郎さんと知り合って、いつの間にか演劇で映像をやっているようになった感じですね。
【山崎】舞台の映像って「そもそも何だ?」って人もいると思うんですよ。舞台の映像ってどういうもので、どうやって作っているんですか?
【奥】舞台の映像というと「収録ですか?」とか言われることがあるんですけど、自分がメインでやっているのは、役者の代わりとまでは行かないですけれど“舞台の美術”。攻撃から守りまで色んな所を補うような形で、映像でステージを染め上げていく演出をする時に呼ばれていることが多いですね。映像を作って流していただく事もあるんですけど、大体は演出家の方と一緒に相談しながら作っていきますね。
【山崎】すごい独特ですよね。映像業界には、CMとかPVとか出身があったりしますけど、舞台映像ってあんまり居なくないですか?
【奥】かなりレアなんですけど、1人か2人このジャンルを牽引してきた人は居ますよ。そういう世界ですね。
試すことから生まれる最先端技術を用いた演出
【山崎】多くの作品を手掛けていらっしゃいますけど、映像という観点で「この舞台はすごかった!」というのはありますか?
【奥】自分が関わらせていただいたNODA・MAPの『THE BEE』は、本当に究極系でしたね。おかげさまで、色々な賞をいただいたり、ワールドツアーを何回もやっているんですけれども。いつの間にかキャストの影が映像になって、その影がだんだん勝手に動き始めたり。セットだと思ったら、いつの間にか映像になったり。逆に映像がセットになったりと、色々な実験が詰め込まれている作品でして。ステージに紙一枚と、素敵なキャストがいれば「こんなに面白いステージが作れるんだ」っていうショーケースになっていると思います。特に貴重な経験だったのが、ロンドンのキャストと一緒に、話し合って作ったりして、本当に楽しかったですよ。
【山崎】なるほどね。今のお話も、この間遊びに行かせていただいたVR能も、すごい実験的というか、挑戦的というか……。そういうものは、ご自身のアイデンティティにあるんですか?
【奥】アイデンティティというほどでは無いかもしれないですけど、実験とか冒険が好きな方たちが、自分を使ってくれているんじゃないですかね。僕もそこに、喜んで行ってしまった(笑)
【山崎】でも、どちらかと言うと奥さんが実験をしているから呼ばれるって感じですよね?(笑)
【奥】そうかもしれないですね(笑)
【山崎】舞台映像と映画もやられていますが、同じ映像表現とは言え、エッセンスの頂点になっている部分が少しずつズレていると思うんです。その辺りで演出上、意識をしていることはありますか?
【奥】舞台の場合は、全体として素敵なお客さんに喜んでもらえる空間になることを第一に考えています。例えば、お客さんが映像を使っていることに気づかなかったりすると大成功だったりする。「今回、映像を使っていなかったね」みたいに言われているけど、実は全部映像でしたという時もあって。
【山崎】錯視というかフェイクというか。だから、場所性によって全然違うということですね。3DとVRを取り入れた能の演出をされていたり、ハイテクな技術も取り入れるじゃないですか。表現者としては、結構覚悟がいると思うのですが、きっかけはあるんですか?
【奥】明治大学の福地健太郎教授や東京大学の稲見昌彦教授など、自分の周りにそういう方々が多いことで、色んなアイディアが出てくるんですよね。そうすると「あ、それもちょっとなんか取り入れてみたいな」って思い始めて。
【山崎】そういう新しい技術って、やり方が決まっていないじゃないですか。例えば舞台において「VRは、こう使うべきだ」という型が無い中で、どうやって新しいものを表現の中に落とし込んでいくんですか?
【奥】本当に心の広い多くの方々の協力を得ながら、いろいろ実験をしています。何かを試してみないと、分からないことが多いので、それを経て、いい使い方を見つける・落とし込んでいく感じですね。
伝統芸能と最新技術を融合した演出
歌舞伎や能、落語といった伝統芸能でも映像演出をされているのが、奥さんのキャリアのユニークな点です。
【山崎】伝統芸能での映像演出も奥さんの特徴かなと思うんですけれど、元々そういう文化がお好きだったんですか?
【奥】わりと好きだったと思いますね。子供の頃から、周りにそういう方も多かったような気もするので、いつの間に好きな方になったんじゃないかな。そういう意味では、和の文化の公演で映像をやれるのは本当にうれしいと思っています。
【山崎】文化に対する理解と、それを守破離では無いですけど、破って新しい表現を追い求めるという部分で、お声がかかる感じですかね?
【奥】駆け込み寺というか、色んな所で断られても「あいつなら、きっとやってくれるんじゃないか」という窓口になっている気がします。
【山崎】伝統系の舞台の時に、意識をしているポイントはありますか?
【奥】特に、日本の伝統芸能を扱う時は、リスペクトを持って「どれだけ本来の演目を壊さないか」というところに、自分なりに気を遣っているつもりです。
【山崎】理解と教養があるから、お願いされる方には安心感があるんだろうなって思いますね。そんな奥さんの1つの真骨頂という感じがするのが、『VR 能 攻殻機動隊』。昨年末に拝見したんですけど、めちゃくちゃビックリしました。攻殻機動隊の話をしないと伝わらないんだけど、現世とあっちとか色々なモノがうまくハマっているんですよね。すごい経験でした!
【奥】そう言っていただいて、本当にありがたいです。
【山崎】VRと能と攻殻機動隊という3つが、どうやって1つになったんですか?
【奥】もともと『3D能』というシリーズの演出をやっていて、3D映像を使っていると「次はやっぱりVRだろう」と。それとは別に『攻殻機動隊ARISE』も3D映像を使って演出した過去がありまして。攻殻機動隊は原作の中で能が取り上げられていて、アニメでも「能は、武士が唯一認めた芸能だ」とか出てくるんですね。僕自身、攻殻機動隊の大ファンだったので、いつか能でやってみたいなと思っていて1歩ずつ組み合わさったという感じです。
【山崎】恥ずかしながらお能はそんなに詳しくないんですけど、現代に通じるお能の魅力って何だと思いますか?
【奥】“日本人だから分かる。日本人にしかわからない。”という部分ですかね。本質的な感覚を表現している事が多くて、代表的な演目『熊野』も、ぐずぐずしている女性の感じが本当によく出ていて「それ分かるわ」みたいな。なので、「こんな面白いのもあったんだ!」ぐらいの所が魅力なんじゃないかなと思っています。
【山崎】なるほどね。そのお能、VR、攻殻機動隊と、どこから入っても非常に楽しめるコンテンツになっていますよね。
【奥】そうですね。そういう風に思っていただけると、大変ありがたいですね。
【山崎】その『VR能 攻殻機動隊』が、非常に評判が良いと言うことで、国内ツアーが決まったそうですね。
【奥】まだ発表できる情報は限られているんですけども(2021年3月14日時点)、5月3日と4日に東京芸術劇場プレイハウスよりスタートします。それ以降の予定は順次発表していくと思いますので、お楽しみにしてください。
【山崎】去年の公演から、アップデートがあったりするんですか?
【奥】はい。色んな部分でバージョンアップして追加エピソードとか、最新演出を加えてお送りしたいと思っております。
【山崎】はい、ありがとうございます。僕は前から攻殻機動隊が好きなんですけど、それを知らなくてもその世界を感じられて、さらに能の中に引き込むという凄まじい舞台になっているので、ぜひ体験していただきたいなと思っています。伝統のコンテンツと日本が誇るポップカルチャー、あと舞台の空間的な刹那性みたいなものが高い次元で合致した表現になっているので、興味のある方は遊びに行ってみてください。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。来週も、引き続き奥秀太郎さんをお迎えし、映画監督としての一面を中心に伺っていきます。
今週の選曲
奥秀太郎さんリクエスト
Truceasca / Balkansambel
山崎晴太郎セレクト
Memory(Ⅲ) / Library Tapes