2021.03.21
奥秀太郎 vol.2
3月21日の文化百貨店のゲストは、先週に引き続き映画監督・映像作家の奥秀太郎さん。今週は、奥さんの映画制作に対しての思いや最近の活動について伺いしました。
びっくりするくらいの夢を見せてくれるのが映画
これまでに、約20作の映画を監督されている奥さん。2002年の初劇場公開作品『日雇い刑事』から、本格的な映画監督としての活動が始まります。
【山崎】『日雇い刑事』が初の劇場公開作品ということですけども、どういった作品なんですか?
【奥】警視庁にパートタイム制が導入されて、とにかく責任感の無い刑事ばかりが出てくる……本当にどうしようもない話ですね。『日雇い刑事』は大人計画の方々に、たくさん出ていただいて楽しんで遊びながら作っていたような気がします。
【山崎】舞台の映像をずっとやっていて、映画にフィールドを広げていったきっかけはあったんですか?
【奥】元々は、とある映画会社の若手発掘の企画みたいなのがあったんです。結局、その企画が無くなって、いつのまにか自主制作になっていったというか。でも、舞台とかライブとか色んなお仕事をしていると、「映画やろうよ」とか「映画に出してくれよ」という会話あって「じゃあ、やるか!」みたいな(笑)
【山崎】「じゃ、やるか!」から、どうやって映画って出来上がって行くんですか?
【奥】正直ですね、昔の方が全然ハードルがあったんですよ。当時はフィルムの時代ですし。ですけど、僕が色々と仕事をしていく内に、だんだん簡単に撮れるようになってきて。正直、今の方が、iPhoneじゃないですけどちょっとした機材で、撮れたりする時代だったりするんですけどね。そこで勢いで撮りに行く人が少ないのかもしれないですね。
【山崎】確かにね。僕も学生時代に16mmのフィルムで撮っていたんですけど、3分とか5分しか撮れないのに1本2000円くらいするんですよ。さらに現像に2000円みたいな感じで、「どれだけ、金がかかるんだ!」と思ってましたもんね。
【奥】でもやっぱり、フィルムは楽しいですよね。
【山崎】楽しいですね。あと、あのフィルムを捨てられないですね(笑) 舞台映像と違って映画だと、自分の世界観で基本的には作品を成立させていくんだと思うんです。演出をしていく中で、これまでの舞台映像と違いを感じましたか?
【奥】ひたすらに楽しいというか(笑) 自分のやりたいことを最大限に表現できる場だと思っていますし、いつも大好きな方々に幸運にも出ていただけることも多いので「これが、役者が揃ったということだよな」みたいな感じで、いつも「生きててよかったな」という気がしますね。
【山崎】なるほどね。なんで、”映画”という表現が奥さん自身にハマっているんだと思いますか?
【奥】正直、僕は映画を作るのが下手なんですよね。多分、一番下手なんですけど、憧れもあるし、時々びっくりするくらいの夢を見せてくれたりもするんで、先にも後にも「これしかないな」という感じになったというところはありますよね。
【山崎】なるほど。映画って撮ったことが無いんですけど、そういう風に言われると撮ってみたいって思いますね。
“遊びの延長”で日本映画のデジタル化を牽引
【山崎】初期の作品は、監督・脚本・撮影・音楽・編集と、全部1人でやられていたんですよね?
【奥】やりたくてやった訳では無くて、人がいなかったんですよね(笑)
【山崎】分業するようになった時に、1人でやってきた時と比べて完成するモノのズレだとか、思いもしない良い形に転がっていったりってありましたか?
【奥】チームで作ると、自分の想像を超えるものが生まれる時もあるので楽しいですね。イタリア語があまり出来ないんですけど、1つ前の作品で思い切ってカメラマンをイタリア人の方にお願いしたんですが、エレベーターを撮るだけで「こんなに、日本人と違うんだ!?」みたいな。土台を最大限に活かして、自分が想像もつかない発想をする人たちと、なるべく一緒に仕事をするようにしたいなと思っています。
【山崎】実験肌というか…”今まで見たことのない表現を見てみたい”みたいな欲求ですか?
【奥】やってくれるというチャンスがあったら、それこそ奇跡だと思うので「やって欲しいな」って思いますよね。
【山崎】そうですけど(笑) それで「失敗したらどうしよう?」とか考えたりする人もいるじゃないですか?僕もアートディレクターをしているので、広告を作る時にカメラマンやスタイリストをどうするとかってやるんですけど、特にカメラは安心感のある人を入れたくなりますもんね。だから、すごいなって思いますよ。
【奥】しょっちゅう失敗もしてますよ(笑)
【山崎】そして、奥さんらしいなと思うのが、映画のデジタル化。2002年の段階で、撮影・上映・編集すべてをデジタルで行っていますよね?みなさんピンと来るか分からないですけれども、2007年頃にREDというデジタルカメラでハリウッドが映画を撮影し始めたという状況なので、2002年ってかなり早いですよね?
【奥】そうですね(笑)
【山崎】なんで、デジタル化をやったんですか?
【奥】バンドマンがエレキギターとかエフェクターを買っていた感覚で映画が作れたら「何て楽しいんだろう」「何て面白いんだろう」と夢中になっていました。
【山崎】その時、デジタルに何を期待されていたんですか?
【奥】フィルムと違ってコンパクトかつ機動力があるので、そういう意味では鞄一つで出来てしまうような面白さに憧れましたね。
【山崎】他の方がトライしないものを軽々かつ当たり前のように、先週からずっとお話をされているんですけれども(笑) 知的好奇心なのか、表現力なのか、単に新しい物好きなのか…?
【奥】最初は、もちろん興味とかもあるんですけど……。例えば、企画自体が途中で頓挫してしまうと、自主制作で撮るしかないような事があったりするんですけど、デジタルだと出来てしまうんじゃないかと。そういうこともあって、救われたところもありますよね。
【山崎】最近は、AIが漫画を描いたりっていう時代ですけれども、新しい技術を見つけたときに、どういう風にご自身の表現の中に落とし込んでいくんですか?
【奥】“最高のおもちゃを手に入れた”という状況だと思うんですよね。遊びながら試してみると、いつの間にかしっくりいく作り方に出会えるというか。その繰り返しですね。
【山崎】ちなみに、新しいものをインプットするときに意識していることってあります?
【奥】色んなモノとか人とか、新しいものって数珠つなぎになっている事が多いので、関連した内容やテーマとかその出会いには感謝をして、1つずつ調べるという事をやっていくつもりではいますね。
【山崎】先週、今週とお話を伺っていて、言葉の選び方やスタンスが僕とすごい似ているような気がしていて。「ただ、楽しいだけ!」みたいな所がありますもんね(笑) 「おもちゃを手に入れた」という気持ちもよく分かるし、僕もその言葉をよく使うので、すごく共感します。
山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたら?
【山崎】最後のパートは、ゲストの方、皆さんにお聞きしていることを伺いたいと思います。僕、山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたらどんな事をしてみたい、もしくは出来ると思いますか?
【奥】一緒に映画をやりたいですね!ふと思ったのが、山崎さんに俳優をお願いしたら面白いんじゃないのかなと思って(笑)
【山崎】それは、やってみたい!(笑) 3歳から、大学卒業まで舞台をやっていたんですよ。
【奥】え!?そうなんですか?
【山崎】ぜひ、呼んで欲しい!!
【奥】僕、今までにも漫画家の萩尾望都先生にもご出演いただいたこともあって。リハビリ施設の院長先生をやっていただいたんですけれども、全然迫力が違いまして、やっぱり本物は違うなと。
【山崎】それは、やってみたいので別途ご連絡します!ギャラはいりません(笑)
【奥】ぜひ、よろしくお願いします。
【山崎】そして、この番組のコンセプト『文化百貨店』という文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一画を与えられたら、どんなものを扱いたいですか?
【奥】百貨店の屋上の遊園地を任せていただきたいなと思っております。
【山崎】遊園地、お好きなんですか?
【奥】大好きですね。デパートの屋上の遊園地も大好きだったんで、プロデュースしてみたいなというのはありますね。
【山崎】今日と先週の話を聞いてると、本当にやられていそうですもんね。この番組の前身は、松屋銀座の中でやっていたので、共感できる部分がありますね。
【奥】古いものから最先端のアトラクションを扱いたいですね。
【山崎】面白そうだし、教育にも良さそうですね。今回のゲストは、映画監督/映像編集の奥秀太郎さんでした。ありがとうございました。
【奥】ありがとうございました。
新型コロナウイルスの影響で、一時中断となっていた奥監督作品『Blood-Club Dolls2』の上映が再開。そして、先週たっぷりお話いただいた演出される舞台『VR 能 攻殻機動隊』のチケットも発売がスタートとされています。今回のお話を聞いて気になった方は、ぜひご覧になってください。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、フリーアナウンサーの町亞聖さんをお迎えしてライフワークとして取材をされている介護について伺います。
今週の選曲
奥秀太郎さんリクエスト
Vitamin C / Can
山崎晴太郎セレクト
Clothed With Sky / Hammock