2021.04.18
鈴木浩之
4月18日の文化百貨店のゲストは、山崎が取締役兼CDOを務める株式会社JMC専務取締役兼COOの鈴木浩之さん。今週も “デザイン経営” をテーマに、コミュニケーション面におけるデザインの役割について伺いました。
大型機械を塗装することで生まれる自社の空間
【山崎】先週から、長野県飯田市にあるJMCのコンセプトセンターからお送りをしているのですが、こちらの工場は鈴木専務が立ち上げた工場ですよね?
【鈴木】そうです。JMCの中で、高い割合を占める砂型の鋳造事業のメインの工場ですね。
【山崎】鋳造について、教えて頂けますか?
【鈴木】鋳造は世の中にありふれているんですけど、溶けた金属を型の中に流し込み、固めていく製法です。すごくシンプルなんですけど、車、バイク、船、飛行機などにも鋳造品が使われています。
【山崎】経営面と同時に、現場を幅広く見られていますが、デザインの重要性について今はどう思われていますか?
【鈴木】現場にも、すごくデザインが入ってきたと思います。私は、ものづくりを始めて15~16年ですけど、当時は鉄骨から何でも緑だったんですよ。
【山崎】床が緑のイメージがありますね。
【鈴木】床も鉄骨も緑だし、危険なものは全部黄色だし。以前は、マシニングや加工機という大きな装置は、薄い緑色がデフォルトだったんです。今は加工機メーカーもデザインを取り入れていて、フェラーリのデザイナーが入ったりしているんですよ。買って、そのまま使っても良いと思えるようになったのは、ここ2~3年ですね。
【山崎】マシニングという大きな加工機械があるんですけど、通常は、デフォルトのカラーで入れるのが当たり前なんですよね。だから工場の中が、メーカーの色で決まっていくんですけど、その機械を入れる時に、鈴木さんがJMCのコーポレートカラーに塗って収めてくれていたんですよ。これによって、空間が全部 “JMCの工場” になるんですよね。ブランドを作る身からすれば、しびれたことでしたね。
【鈴木】色の統一感だけじゃなくて、全体的な整理と印象が付くので、お客さんが来た時の見た瞬間のイメージが違いますね。
【山崎】社員にとってはどうですか?
【鈴木】直接、聞いたことは無いんですけど、若い子たちが「入りたい」と思えるような工場になってきていますし、作業着も含めて従来とは変わってきていますね。
【山崎】自分たちで言うのもあれですが、JMCって製造業の中で言うと、工場や作業着の美しさやカッコよさは、本当にトップだと思いますからね。
【鈴木】圧倒的に変わりましたよね。でも、日本は、特に遅れている気がしますよ。
【山崎】海外に行ったら、すごいと言ってましたね。
【鈴木】全然違いますね。ヨーロッパに行く機会が多いですけど、完全にデザインされています。
【山崎】そういう経験があるから、鈴木さん自身がデザインに関してかなり前向きなんでしょうか?
【鈴木】そうですね。ヨーロッパで工場の見学に行くと、必ずお土産がもらえるんですよ。大手のメーカーになると、自社のボールペン、Tシャツ、キャップとか一式。なので、海外の方が日本に来られた時に「お土産ないの?」という顔をして帰っていくんですよね。海外を主体にしている日本のメーカーは、そういったグッズを作っていますね。ブランディングもしっかりしていないと、外から見たときに印象も弱いというのは、アメリカやヨーロッパだと当たり前ですね。
【山崎】その話を聞くと、JMCのグッズを作ろうかという気になりますね。
【鈴木】「作業着が欲しい」というのは、すごく言われるようになりました。
【山崎】あの作業着は、頑張って作りましたからね。鈴木さんのこだわりも詰まった作業着ですもんね。
【鈴木】そうですね、“作業のしやすさ”を重視しましたね。
【山崎】意匠性というか見た目の部分を僕から出し、そこに機能性を鈴木さんが出していくという感じで進めていきましたもんね。
当たり前に疑問を持つことから始まる、ものづくりを伝えること
【山崎】鈴木専務は、昨年10月まで1年半くらいの間、FMヨコハマの番組に出演したり、JMCのスポークスマン的な役割を担っていらっしゃいますが、ラジオをやってみてどうでした?
【鈴木】想像以上に、みなさんが聴いているんだなと感じましたし、“ものづくりをいかに簡単に喋るか”という事について、すごい勉強になりました。
【山崎】最初から上手に、話していましたけどね。製造業は、携わっていないと、何をやっているかも分からないし、3Kというイメージが大きいという風に、世の中と乖離があるんですよ。その壁がありながらも、鈴木さんは、これだけ分かりやすくよく喋れるなと思うんですね。僕は、喋るのが苦手ではないので、人が喋った話をトレースして、自分のものにして喋る事は難しくないんですけど、鈴木さんのトレースはできないです。
【鈴木】今42歳なんですけど、30歳過ぎくらいまでは現場に入って「早く出てこい」と言われていた側なので、あまり外に出て喋っていこうという話は無かったんです。
【山崎】若い世代が出てきて、言語が伝わるように工夫をしたりしたんですか?
【鈴木】というより、昔から疑問はありました。下の立場から見たときに「俺だったら、こうやるのにな」という事は常に思ってましたね。そこを不思議に思えるかどうかだと思うんですよね。
【山崎】なるほどね。そこが原点なのかもしれないですね。僕がJMCに入った時は、3Dプリンターと鋳造という2つの事業があって、そこから鈴木さんがCTを事業化していきました。産業用CTというのは、日本に前例がほとんど無かったので、嗅覚がすごいなと思っていたんですけど、あの理屈もすぐ自分のものにしたじゃないですか?
【鈴木】僕らがやっているCTというのは、お客さんが「これを撮ってほしい」と言われて、撮った結果を返すビジネスです。でも、CT事業って聞いても難しいじゃないですか?
【山崎】お医者さんのイメージがありますよね。
【鈴木】産業用のCTがあるんですけど、出力が強いので金属の内部まで見えるんです。中が割れているとか、内部の欠陥が組み立てたままの状態でも、見えるんですよ。例えば、“ロケットが飛びます”という時に、分解したり、切ったりしたら意味が無いので、そのままの状態で見たいんですよ。医療用CTで、外から何か異常があるのか見るのと同じですね。
【山崎】仏像を破壊せずに、中にある巻物が見つかったというやつですよね?
【鈴木】そうですね。日本でCTのことを話しても、分からない人がほとんどだったので、それをいかに分かりやすく伝えるのかというのを1~2年ずっとプレゼンテーションをしていたんですよ。それから、どんどん広がって、今は他のスタッフに全部委譲して、彼らもずっと広げながらやっていくれています。
【山崎】ポルシェのレストアパーツづくりも調子が良くて、事業化しそうな感じですよね?
【鈴木】そうですね。事業化に向けていますね。
【山崎】この辺りが、成り立つ要因になったのが、YouTubeチャンネル『JMC BASE』 ですよね?
【鈴木】そうです。レストア事業の内容としては、メーカーも製造しなくなった1970年代の車とかバイクのパーツづくりですね。ものづくりは、伝わりにくいところがあって、ただ一辺倒にものを造って売るのではなく、どういう過程を経ているとか、どういう意味を持ってこの形状にしていったというのを見せる場にしたのがYouTubeなんです。
【山崎】そうですね。製品だけを置かれても……というところはありますよね。
【鈴木】マシニングと言われても、一般の方は加工機が分からないですよね?そういった技術的な部分も分かりやすく説明するためのコミュニケーションツールとして始めましたね。
【山崎】製造業の中だと、比較的早めに始めたと思いますし、まさか孫請け・ひ孫請けというような業界の中から、「あんなにしっかりしたYouTubeチャンネルが!?」といった驚きを業界に与えられたかなと思いますね。でも、最初にYouTubeに出て欲しいって聞かされた時に、ここまで想像できていなかったですよね?
【鈴木】やはり、映像に対する抵抗がありましたよ。ただ、ラジオをやっている時に「映像を見せないと通じないな」というのは思っていました。
【山崎】やってみてどうでしたか?
【鈴木】想像以上に営業ツールになりますね。色んな所で「YouTube見ています」とか言っていただけるようになったし、話が早くなったりしましたね。
企業のキャラクターを可視化するのがデザイン
【山崎】製造業には、フィジカルなコミュニケーションが多いイメージなんですけど、JMCはデジタル化が早いですよね。ネットの広告や、オンラインのセミナーなどを積極的にやっていますよね?
【鈴木】3Dプリンター事業から始まった会社なので、3Dデータありきで全てが動くんですね。だから、デジタルやインターネットでのコミュニケーションに対して、ネガティブな印象は全くないです。
【山崎】まだ会社に対してフィードバックが出来ていないんですけど、去年くらいから、JMCのデジタルコミュニケーションR&Dという形で、製造業のオンライン化の実験をしているんですよ。CTと3Dプリンターは、コミュニケーションをオンライン化しようと思えばできるはずなんですけど、鋳造だけは出来ないんですよ。鋳造について調べていくほど、フィジカルな世界で見えているものと、デジタルな世界で見えているものの比率が全然違うんですよ。キーワードも検索している人も少ないし、めちゃめちゃ謎なんですよね。これをJMCから解明したいですよ。
【鈴木】技術的な検索をしようとしても、鋳造だけ出てこないんですよ。だから、論文を見に行くんですよね。実は、フィジカルなペーパーに技術が宿っているんです。
【山崎】なるほどね。これは、僕の持論なんですけど、B to BもB to Cの中にあるんですよ。全ての人はB to Cの消費をしていて、その中の一つのベン図がB to Bなので、みんなネットで検索はしているし、食べログを見て店に行っているし、Amazonで買っているんですよ。日常では、その道を通っているはずなのに、なぜか仕事の話になった瞬間に、切り替えが起きるということは、まだ道が無いだけだと思っているんですよ。この道を作れるのはJMCしかないと思って奮闘している状態です。これが出来たら、業界自体もデザインできるのではと思っているんですけどね。
【鈴木】そうですよね。
【山崎】3Dプリンター・鋳造・CTという3つの事業のかけ合わせが上手くいっている部分と、鋳造事業が社会の中で苦戦をしている部分があるという状況で、これからどうして行きましょうか?
【鈴木】デザインが入って、いわゆる“製品”という形で、色んな商品を出せるような会社にしないといけないと思うんですよね。
【山崎】社内でも「もう少し、表に出ていいのかな?」という空気が出始めていますよね。
【鈴木】そうですね。やはりレストアとか、開発系の事をビジネスにしたいですね。レストアしていると、この部品を「こうしたい」という生の声を元に、僕らが技術的に見せないといけないし、考えさせられる仕事が多いし、面白いんですよね。
【山崎】ものづくりが、少し自由になった感じがありますよね。デザインと製造とコミュニケーションの3つは、繋がっているようで分断されているじゃないですか。僕は、伝える事や化粧をする事はできますけど、ものは造れないんですよ。これが掛け算になっているのが、海外のすごい強いメーカーですよね。
【鈴木】そうですよね。
【山崎】最後に、企業におけるデザインとは何を指すと思いますか?
【鈴木】キャラクターですね。その会社が「こういうキャラだな」というのが、デザインから見えてくると思います。僕がヨーロッパへ行った時に感じた事なんですけど、入った瞬間に居る人や会社の雰囲気が分かる。それを印象付けるのがデザインの力かなと思います。
【山崎】なるほどね。今回のゲストは、株式者JMC専務取締役兼COOの鈴木浩之さんでした。ありがとうございました。
【鈴木】ありがとうございました。
【山崎】2週にわたって“デザイン経営”についてお話をしていきました。デザインと経営はホットキーワードになっているようで、中身がイマイチ分からないという人も多いと思いますが、この2週でその中身が少しでも伝わっていれば良いなと思っています。経営的に抑えるところさえ抑えれば、デザインが最もジャンプできるフィールドだと思いますので、デザイン×経営について、引き続きチェックをしていただければ嬉しいです。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、グッドデザイン賞を主催する日本デザイン振興会から矢島進二さんをお迎えしてお送りします。
今週の選曲
鈴木浩之さんリクエスト
プレイバック Part 2 / 山口百恵