2021.05.30
山崎 貴之 vol.2
5月30日の文化百貨店のゲストは、先週に引き続き、雑誌『UOMO』編集長の山崎貴之さん。今回は、山崎編集長が見てきた雑誌の変遷や媒体としての未来像などを伺いました。
90年代、雑誌はSNSのような存在だった
【晴太郎】1995年に集英社に入社されましたけど、志望は『週刊プレイボーイ』だったんですね。
【編集長】そうなんです。最初は、ファッション誌志望ではなくて、どちらかといえば “文章を読ませる事”をやりたかったんですよ。あと、学生の時に深夜喫茶でウェイターをやっていて、お店が暇な時に置いてあった週刊誌をずっと読んでいたんです。だから、その辺のジャンルには詳しかったのと、真面目なものよりは“面白いもの”が作りたかったので、『週刊プレイボーイ』なら出来るかなと思って、志望していました。
【晴太郎】ところが、最初に配属されたのは女性ファッション誌の『MORE』ですよね。
【編集長】ファッション誌は、『MEN’S NON-NO』をはじめたくさん読んではいたから、希望ではなかったとはいえ、扱うものが全く分からないという事は無かったと思います。1990年代後半は『MORE』は50万~60万部売れていた時代です。当時はまだインターネットもそこまで発展していなかったですし。新人の自分が作ったページや書いた原稿を何十万人が見てくれるというスケール感は、貴重な経験でしたね。
【晴太郎】ちょっと、ヒリヒリしますよね。
【編集長】むしろその頃は、雑誌にSNSみたいな機能があったんですよ。
【晴太郎】コミュニケーションツールという感じですかね?
【編集長】編集部にいると、ちょっとしたことで電話がかかってくるんですよ。たとえば、モデルが着ている服の事ではなくて「モデルの横にある椅子はどこで買えるのか?」というような事を聞かれる。昔は、調べる方法が無いから「そうだ、電話しよう」となるんですよね。もちろんクレームもあって、編集者が話を伺っていました。今はそういうコミュニケーションはSNSに移行してしまったけれども、そういう所は昔の雑誌の良いところでもあったと思いますね。
【晴太郎】確かにね。僕も、「この日にスナップをやります」というのに、よく行っていましたね。
ファッション誌のキャプションが嫌いだった
【晴太郎】UOMOの誌面で、“みんなの試着会”みたいなのをやっているじゃないですか?あれ、すごく行きたいです!
【編集長】“みんなの試着フェス!”ですね。次は、10月25日発売の12月号で特集しますから、お呼びしますよ。
【晴太郎】見ていて、すごく面白そうだなと思っていたんです。
【編集長】新作の服200着以上を集めて、何十人かのファッション関係者や読者の方に着てもらって、良い所や気になる部分、こうして欲しいという希望までリアルな感想を載せています。この企画をやろうと思った理由として、僕は以前から、ファッション誌における洋服を“何となく褒めて終わる”キャプションが嫌いだったんですよ。雑誌に、必要な要素だとは思うんですけど、洋服の気になる点って普通は書かないんですよね。
【晴太郎】そうですよね……
【編集長】それを解決する方法として、第三者に試着してもらった意見を載せることを考えたんです。車の雑誌だと、試乗した後のレビューで駄目な部分も正直に書いていますしね。ですので、試着フェスの出発点には少し硬派な考えがあるんです。
【晴太郎】ジャーナリスティックな感じですね。
【編集長】はい。でも、始めてみたら、試着が楽しくなってきちゃって(笑) 。文化祭みたいなノリもあるんですよ。密を避けて、今後も半期に一度実施していく予定ですので、ぜひ今度お願いします!(笑)
【晴太郎】ぜひぜひ、お願いします。企画で言うと、『SPUR』の副編集長の時にされた、『岸辺露伴 GUCCIへ行く』(GUCCIと『ジョジョの奇妙な冒険』のコラボ)も話題になりましたよね?
【編集長】社内でジョジョの第5部の担当者から、「荒木先生の画業30年の節目に何か出来ることがないか」という相談を受けたことがあって、ちょうど、その時にGUCCIが創業90周年を迎えるタイミングで、両者を結びつける事を企画して、当時の編集長とGUCCIに企画書を持って行ったのがきっかけでした。それで、2011年に16ページフルカラーの漫画『岸辺露伴GUCCIへ行く』をSPURに付けて、GUCCIの新宿店で原画展をやりましたが、すごい反響でしたね。
【晴太郎】そうですよね!「よく、やれましたよね」という印象で、衝撃的でした。
【編集長】荒木さんの生の原稿ってすごいんですよ。GUCCIのイタリア本国の方も漫画をチェックをするんですけど、ジョジョって設定を知らないと、分からないじゃないですか?そこを逐一説明しながら進めていくのは通常の漫画より、複雑な作業になるんですけど、最終的には荒木さんの描いた16ページの漫画をスキャンして送ったら「素晴らしいので、このままでやってください」と、細かい点まで何もかもにOKが出ました。
【晴太郎】すごいですね。
【編集長】その結果、SPURでは続編も含めて荒木さんの描き下ろしを2回掲載しました。2回目は、世界中のGUCCIの店舗のディスプレイにも使われて、フィレンツェでも原画展をやりました。
【晴太郎】表層のメディアミックスより、かなり本格的ですよね。
【編集長】漫画家の先生ってとても忙しいので、調整は大変でしたけど、あの企画が出来て、本当に幸せだったと思いますね。
雑誌が難しいと言われる時代でも、出来ることはたくさんある
【晴太郎】今回の山崎さんが選んだ1曲は、藤井風の『Back Stabbers』ですね。この曲は、どういった曲でしょうか?
【編集長】藤井風さんは大好きなんですけど、彼は岡山の出身なんですよ。僕も中学・高校と岡山で育ったんです。実は親の転勤で引っ越した当初は、岡山があまり好きではなくて。友達はいたし、馴染んでいなかった事もないんだけど、高校の時に「ここには、何も無いな」と思って、早く東京に出たいと大学で上京をして現在に至るんです。
【晴太郎】そうなんですね。
【編集長】そこから30年経って、藤井さんの曲を聴いて「すごいな」と思って。僕が“何もない”と思っていた岡山で、藤井さんはピアノを弾きながら歌っていたんですよね。歌詞で、岡山弁を使っているでしょう?僕なんかは、岡山弁を出したくなかったんですから。あたかも、標準語で育ったように装って。そういう俺が“一番カッコ悪いんじゃ”という事ですよ(笑) 藤井さんの突き抜けている感じが、見ていてすごく羨ましいと思いますね。
【晴太郎】すごく良いエピソードじゃないですか(笑)
Back Stabbers / 藤井風
【晴太郎】UOMOの編集長をされていて、「いまの時代、雑誌が難しい」と言われることがあると思うんですよ。そんな中で、舵取りをする編集長として、何が必要だと思いますか?
【編集長】今もラジオでお話をしたり、先日はアパレルのライブコマースに出演したりして、対外的なスポークスマンという受け取り方をされることが多いんです。だけどやはり編集長は、自分でアイディアを出して、雑誌を変えられる、もしくは新しいことに挑戦できる立ち場でありたいと思います。
【晴太郎】これから雑誌は、どうなっていきますか?
【編集長】今は紙、Web、SNSと独立していますけど、これらは未来には1つの物になるかもしれないですよね。例えば、雑誌を読んでいて、気になった本や服があればタップをして買えたり、気になった事があれば編集者に質問を出来るようになったり。雑誌自体が、1つのオープンなコミュニティーになるような、SNSやECや動画も統合されたメディアになっているかもしれない。きっと、そこで新しいことは、たくさんできると思うんです。
【晴太郎】それは、最高ですね。
【編集長】あと、二極化して、クローズドなものも残ると思います。職場が神保町なので、古本屋に行って昔のファッション誌によく目を通すんですが、そういう雑誌って載っている服を今買うことは出来ないし、お店だって潰れているかもしれない。つまり昔の雑誌って、どこにも通じていない袋小路なんですよ。それでも、見ていて飽きない。先に話した、色んなものと繋がる雑誌の未来とは逆に、“どこにも通じていない閉じた楽しさ”が、あってもいいのかなと思います。
【晴太郎】確かに。今のお話を聞いていると、すごく可能性がありそうですね。変化せざるを得ないからこそ、この先ワクワクできるようなメディアでもありますよね。
【編集長】“雑誌は厳しい状況” とよく言われていますけど、やれることもありますし。さっきの藤井風さんじゃないですけど、才能がある人を追いかけているだけでも、新しく出来ることはたくさんあると思いますね。
文化百貨店で、陳腐化したカルチャーグッズを救済したい
【晴太郎】最後のパートは、ゲストの方、皆さんに伺っていることをお聞きしていきます。僕、山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?
【編集長】一緒に神保町にサウナを作りたいと思っていまして(笑) 僕はサウナが好きだけど、神保町にはサウナが無いので。最近はお洒落でモダンな雰囲気のサウナも多くなってきたけど、たいていコンクリートの打ちっぱなしなんですよ。
【晴太郎】ミニマルな感じですよね。
【編集長】コンクリ打ちっぱなしだと、建築現場で裸になっているような変な感覚があるので、そこを良い塩梅でアレンジしていただきたい(笑)
【晴太郎】UOMOのポップアップで出来ないですかね?(笑)
【編集長】やりたいですね。
【晴太郎】その時は、ぜひご一緒させてください。そして、この番組のコンセプトである『文化百貨店』という架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一画を与えられたら、どんなものを扱いたいですか?
【編集長】今はもう陳腐化しちゃったカルチャーグッズを救済するバイイングをしたいと思いました。『グラン・ブルー』のポスターとか、面出しして置いていたブルーノートやカフェ・アプレミディのCDジャケットみたいな、昔の大学生がイキって部屋に飾っていたものを並べてみたいなと。グッズだとチャッピーとか。そういうのを、もう1回そろえて見せるという。
【晴太郎】身内でやったら、面白いやつですよね(笑)
【編集長】そういえば、北海道のお土産で熊の木彫りあるじゃないですか?
【晴太郎】鮭をくわえているやつですよね?
【編集長】あの熊の木彫りの作家物って最近注目されてるんですよ。抽象的な彫刻もあってかっこいいし、あらためて見直されてるんですけど、僕がやりたいのは、流行が一周回っても、まだカッコ悪い全然成熟していないモノ。それらを集めて、大人と一緒に顔を真っ赤にしながら買うコーナーを作りたいと思います(笑)
【晴太郎】力が抜けていて良いですね(笑) 2週に渡って、雑誌UOMOの編集長の山崎貴之さんとお送りしてきました。試着フェス楽しみにしています!ありがとうございました。
【編集長】ありがとうございました。
雑誌UOMO最新の7月号は、現在発売中です。夏服選びのご参考に、ぜひご覧ください。
UOMO最新7月号
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、4月に新作が発売されたゲーム『NieR』シリーズの斎藤陽介プロデューサーと、ディレクターのヨコオタロウさんをお迎えし、最新作『NieR Replicant ver.1.22…』ついて伺います。
Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中