2021.06.06
齊藤 陽介 / ヨコオ タロウ vol.1
6月6日の文化百貨店のゲストは、全世界で大ヒットを記録しているゲーム、NieRシリーズからプロデューサーの齊藤陽介さんとクリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウさん。今回は11年の時を経て、バージョンアップを遂げた『NieR Replicant ver.1.22474487139…』について伺います。
世界中で愛されている『NieR』シリーズ
【山崎】本日は、スクウェア・エニックスさんにお邪魔をしています。少年の夢というか、憧れの場所という感じがします。
【齊藤】そうですか?いつでも来ていいですよ。
【山崎】本当ですか?僕自身、ゲームは好きでプレーはしているんですけど、仕事として関わって来なかったんですよ。NieRシリーズをまだプレーしていない方もいると思うので、簡単に説明いただいてもいいですか?
【齊藤】2010年に発売された2つのタイトル『NieR Replicant 』と『NieR Gestalt』、2017年の『NieR :Automata』、今年2月に出たスマホゲーム『NieR Re [in]carantion』、そして4月に発売された最初の作品のバージョンアップ版『NieR Replicant ver.1.22474487139…』と5タイトルあります。ドラゴンクエストみたいに、シリーズとしてたくさんあるわけでは無いんですけど、世界中で愛していただいているタイトルです。
【山崎】Automataをプレーして「何だこれは!」と思ってからハマっていったんですよ。世界観が、すごく複雑だと思うのですが、設定はどこまで決めてから進めて行くんですか?
【ヨコオ】その辺りを深く話していくと、みんな幻滅するので、あまり深堀りしないほうがいいのではないのかなと思うんですけど(笑) 緻密な設定を作っているんじゃないと言われるんですけど、基本は行き当たりばったりで作っている感じです。ただ、一回作った設定を裏切るような話を後から付けると成立しないので、出てくる現象に対して積み上げていくような作り方をしています。
【山崎】NieRもそうですし、映画だと『エヴァンゲリオン』や『スターウォーズ』も、常に面白いと思っているんですけど、観終わった時に毎回「全体像が、分かっていないのではないか?」と思う時があるんですよ。作品づくりに携わっている皆さんは、どのくらいNieRの世界観を理解しているんですか?
【齊藤】NieRの全体像を知っているのは、世界中でヨコオさんただ一人ですよ。私ですら、後で聞かされることもあるし、そもそも全部を理解しているとも思っていないし。
【ヨコオ】NieRは、基本的にはエンタメ作品なので、一通りプレーをするだけで、なんとなくお話の面白さは伝わるようなデザインにはしています。ただ、全部が分かってしまう前提で構成すると、リアリティーが無くなるので、バランスを取りながら作っていますね。「人って複雑だよね」という所から、全部を説明しないというか。悪役も、全部を説明してしまうと薄っぺらくなるので、お客様が「実はこういうことがあったのではないか?」考えてくださるような描き方を心掛けたいと思っています。
【山崎】余白を作るというか?
【ヨコオ】そうですね。
【山崎】ゲームは、もう少し分かりやすい世界だった気がするのですが、そういう意識になったきっかけはありますか?
【ヨコオ】その辺りは、エヴァンゲリオンを観て「こんなに分からなくていいんだ」と思った影響が大きいんじゃないですかね?昔は、ハリウッドのシンプルなお話が好きだったんですけど、大学生くらいになってから複雑なものが面白いと思えるようになって、色々な描き方がある事を学びましたね。
【山崎】全体像が分からなくてもプロデュースはできるものですか?
【齊藤】開発のフェーズの中で、プリプロダクションとプロダクションがあるんです。私が口を出すのはプリプロダクションの初期の方針だけなんです。ゲームの中身に関しては、ヨコオさんに一任をしているので、そこまで掘り下げることはないですね。
【ヨコオ】今の話、聞いている方は分かるんですかね?プリプロダクションは、ゲーム業界特有の用語な気がしますね。
【齊藤】確かにね。いわゆる、事前開発ですね。“本当にこのゲームを作り続けていいのか”というフェーズがいくつかあって、うちの場合はプリプロダクションに半年~1年ほどかけて、ゲーム性や世界観を精査していきます。Nier : Automataでいうと、廃工場を1ステージ分作って、一連のゲームの流れが分かるようにチェックをして、本開発に移行していきましたね。
【山崎】そういう進み方なんですね。
【齊藤】あと、プリプロダクション期間中に、私の中でもう1つタスクがあるんですよ。開発を担当する会社と、ディレクターがマッチングした時の化学反応を見極めたかったんですよね。関係性が悪いと、破綻してしまうこともあるので。
リメイクでもなく、リマスターでもないバージョンアップ版
【山崎】今回、NieRシリーズの第1作となるNieR Replicantをバージョンアップされました。NieR : Automataが大ヒットした後なので、オリジナルを発表した頃と取り巻く環境が違うと思うのですが、影響はありましたか?
【齊藤】良くも悪くもプレッシャーになりましたね。バージョンアップ版とは言え、NieR : Automataの後に発売するものなので、求められるものは何倍も高い水準になっていると思っていたので。ヨコオさんと話していた段階では、あくまでもリメイク、リマスターと呼ばれるものに近しいもので「そんなに手間暇をかけずにいけるかもね」みたいな話をしていたんです。それでも、ヨコオさんはこだわるので、どんどん仕様が積み重なっていって、見た目がキレイになっていき……。0から作るのと同じくらい大変なこともあったりしましたね。
【山崎】“リメイクやバージョンアップとは言え”みたいな所はあるんですか?
【ヨコオ】ゲーム用語で、“リメイク”と“リマスター”は少し違うんですね。“リマスター”は、昔のデータの解像度を上げた作品。“リメイク”は、データを全部作り直して、キャラクターのグラフィックを直すので、意外とお金がかかるんですよね。NieR Replicantは、昔のデータを使って、今の世代のゲーム機に合わせて出そうという話で“リマスター”に近いコンセプトで作り始めたんです。だけど、あれも、これも直しているうちに、どんどん直しが増えて行って、“リメイク”に近づいていったのが真相です。リメイクでもリマスターでもないから「何て呼ぼう?」と思って“バージョンアップ版”と呼んでいるのが、実際の所です。
【山崎】音楽もバージョンアップをされているんですよね?
【齊藤】ヨコオさんからのオーダーで、当時の音楽を大きく変えるのではなく、ループを長くしたんだよね?
【ヨコオ】そうですね。オリジナルに対して、曲のクオリティーも上げているんですけど、基本的な構造を変えずに、アウトロを追加して、聴きごたえを増やしたのが今回のバージョンですね。
【山崎】NieRシリーズをやり始めた時に、音楽にも衝撃を受けたんですけど、どのようにディレクションされているのですか?
【ヨコオ】聞くと幻滅すると思うんですけど、大丈夫ですか?(笑) NieRでは、“音楽を大事にしたい”と思っていたんですね。その思いの中で、一番わがままを言える人は誰だろうと思って、大学の後輩でもある岡部啓一さんを選んびました。わがままというのが、YouTubeのリンクを貼って「こんな感じの曲を作ってほしい」というディレクション方法です。多分、他の作曲家の方にやると怒られる発注方法だと思うんですよ(笑)
【山崎】なるほどね(笑) ゲームの音楽って、テンションを上げていくような作り方が多いと思うんですけど、NieRはしっとりしていますよね。そういう世界観は、ヨコオさんの中でずっとイメージされていたんですか?
【ヨコオ】そうですね。アクションゲームの音楽は、バトルが始まると派手な音楽が鳴って、フィールドの時はフィールドの音楽が鳴るという感じで、比較的コマが切れちゃうアサインの仕方なんです。それは、音楽の自分の体験として、「少し忙しいな」と感じていたので、もう少しゆったりした中で、バトルや流れが起きてほしいなと思って、比較的に緩やかな変化をするような作りにしました。
多様なメディアを駆使して、お客さんにお土産を1つ渡す心がけ
【山崎】オリジナルから11年経っているので、若いスタッフも多く関わったと思います。自分たちが生み出した世界観にどんどん新しい血が入って来たと思うんですけど、若い人たちに刺激をもらって変化をしたことはありますか?
【ヨコオ】NieR Replicant ver.1.22474487139…を作ってくださったスタッフは、30歳ぐらいの人が多いんですね。僕は今50歳で、彼らとは20歳も違うので、テクノロジーに対するナチュラルさや触れ合い方が変わったなと思いますね。40歳くらいの方は、どちらかというと僕ら世代の延長線上で「こんな感じに変わったな」と思えたんですけど。30歳ぐらいから、突然世代変わるようなイメージで、優秀な人が増えた気がします。
【山崎】表現が、日常と繋がりつつあるという感じですかね?
【ヨコオ】ツールの使い方ですね。それまでの世代は頑張って覚えていたのが、デジタルネイティブという感じで、空気の様に使えるようになっていますね。
NieR Replicant ver.1.22474487139…
【山崎】実写のCMや舞台、書籍とNieR の世界観が色んなチャネルに派生しているのは、ヨコオさんの描きたい世界がゲームだけでは収まらないという事なんですかね?
【ヨコオ】コンサートの中に朗読劇を入れたり、攻略本に外伝的なエピソードを入れたのは、ゲームをプレーした人に、ゲームと同じ説明ではバリューが足りないと思ったからです。お土産を1つでも、お渡しできるのが良いなと考えて、シナリオを新しく考えて作っているんです。でも、お客様からは「最初から全部入れろ」と言われるんですよ(笑) ここで強く言いたいのは、最初にゲームを作っている時は、何も考えていなくて、後で一生懸命考えたものなので、勘弁してほしいなと思います。
【齊藤】それこそ、余白のいくつかを引っ張り出して……
【ヨコオ】そうですね。「(物語の中の)この時間が空いているから、何かやっているはずだ」と、一生懸命考えています。
【山崎】音楽の時の自分の体験の話や、今のお土産が足りないという事など、ヨコオさんの消費者としての実体験が投影されていると思ったんですけど、そういう意識はあるんですか?
【ヨコオ】ゲームは言ってしまえば、高いメディアですよね? 映画のブルーレイも、もう少し安く買えるんですから。高いお金を頂いているお仕事として、お客様の期待に応えるだけの価値が必要だと考えて、一生懸命ひねり出していますね。
【齊藤】ゲームは、時間単価を考えると安い遊びだと思いますけどね(笑)
【山崎】僕も、すごく安いと思いますね。最後に、改めて『NieR Replicant ver.1.22474487139…』の紹介をお願いします。
【齊藤】NieR : Automataから入った方も、十分に楽しんでいただけると作品です。アクションが苦手な方でもオートバトルで、キャラクターの移動だけでも敵を倒せる機能が実装がされていますので、気軽に楽しんでいただけると思います。ヨコオさんの世界観や物語、そして岡部啓一さんの素晴らしい楽曲を体験できるゲームとして、高い完成度の作品なので、興味をもって頂いた方にはぜひ遊んでいただきたいです。
【ヨコオ】NieRは、目の前に出てきた敵をポカポカ殴っていれば、話が何となく進んでいく楽しいゲームなので、もし興味をもっていただけた方がいらっしゃったら、遊んでみていただけると嬉しいです。
【齊藤】ハッピーエンドの楽しいゲームです(笑)
【山崎】ありがとうございます。本日のゲストは『NieR Replicant ver.1.22474487139…』のプロデューサー齊藤陽介さんとクリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウさんでした。ありがとうございました。
【2人】ありがとうございました。
NieR Replicant ver.1.22474487139…
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回も引き続き、NieRシリーズのプロデューサー齊藤陽介さんとクリエイティブ・ディレクターのヨコオタロウさんをお迎えし、お2人のキャリアや活動について伺っていきます。
今週の選曲
齊藤陽介さんのセレクト
『イニシエノウタ/運命』 / NieR Replicant ver.1.22474487139… Original Soundtrack
※NieR Gestalt & Replicant Original Soundtrackの音源となります。NieR Replicant ver.1.22474487139…Original Soundtrackはこちらのリンクからご確認ください。
https://www.jp.square-enix.com/music/sem/page/nier/replicantv1ost/
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