2021.08.08
森ゆに vol.2
8月8日の文化百貨店のゲストは、先週に引き続きシンガーソングライター・ピアニストの森ゆにさん。今回は、山梨県を拠点に活動されている森さんの山梨県からの活動について伺いました。
挑戦をしてみて、気づいたライブ配信の良い所
【山崎】森さんは東京で音楽活動をスタートして、9年ほど前に山梨県に移住をされたんですね。最近はリモートワークやテレビ会議が一般的になってきた感じがありますけども、当時を振り返って、直接コミュニケーションが取れなくなることへの不安はなかったですか?
【森】電話やビデオチャットも出来ましたし、まったく不安に思わなかったですね。時々、CMなんかの音源制作の仕事もするんですけど、データのやり取りだけで出来ちゃうので、あまり遠隔での不便さは感じないですね。
【山崎】森さんの音楽活動の中で、制作とライブという2つの軸があると思います。このうち、どちらのウェイトが大きいですか?
【森】結構、質の違うものではあるので、切り替えが難しい時があります。ライブはひたすらアウトプットみたいな感じで、作曲をするためにはインプットが必要という感じです。ライブに出ると色んな人に会って刺激をいただけるという醍醐味もあるし、籠っているのはそれはそれで良い時間なので……。どっちが好きとかって、はっきりは言えない(笑)
【山崎】そうですよね。両方あるというのが面白い所かもしれませんね。文筆家や小説家は、ほとんど籠る事になると思うんですけど、森さんは良いバランスが取れているので、新しい世界が広がっているのかもしれないですよね。昨年から、パフォーマンスのライブ配信をされていますけど、きっかけは何だったんですか?
【森】コロナ禍の中、ライブを配信に切り替えるアーティストがいっぱいいて、すごいと思っていたんですね。ただ、個人的には、その場にいてやるライブと配信するライブが同じには思えなかったので、ライブが出来無いから配信をしようという頭には中々なれなかったんです。そんな時に「うちのシステムを使って配信をやりませんか?」と声を掛けてくれる方がいたんですね。配信でしか出せないようなクオリティーの映像でライブを届ける事に挑戦している方だったので、そういう形だったら面白いかなと思って参加しました。
【山崎】挑戦してみて、いかがでしたか?
【森】お客さんが目の前にいない不思議な感覚はあるんですけど、リアルタイムでコメントを送って頂けるようにしてコミュニケーションも取れましたし、すごく良かったし、楽しかったですよ。音や映像も、すごく良く調整していただいたので、満足感もありましたね。ライブをやっても、どうしてもお仕事の都合や、家庭の事情で聴きに来られない方がいるじゃないですか?そういう方にも観てもらえたのが、シンプルに良かったのかなと思います。
【山崎】配信だと、そういう制約は無くなりますもんね。
【森】それに、定員も無いですしね。ライブ配信だと好きなシチュエーションで聴けるので、お客さんにはそういう面も良いのかなと思いました。
音楽を愛する地元の繋がりから生まれたCDの無い作品
【山崎】地元のキャンプ場みたいな所で、地元の小学生と一緒に歌った動画をSNSにアップされたり、ブドウ畑からのライブ配信をされたりしています。こういう活動は、地元(山梨)感を目指してやってらっしゃるんですか?
【森】「地元から何かを発信しよう」という意識ではなくて、たまたま周りに素敵なアイデアを持っている友達がいる感じですね。住んでいると、近隣の飲食や農業の生産者や、違うジャンルのアーティストをやっている人たちに出会ったりするんですよね。その人たちがみんな、音楽を好きでいてくれるので、演奏や配信をする場所のアイデアをくれるんですよ。今住んでいる所の近隣で言うと、音楽業界の人より、異業種の人の方が繋がっている人が多いですね。
【山崎】そのお話に繋がると思うんですけど、昨年末に田辺玄さんと共作で発表されたアルバムの『2020』。プロデュースが、山梨県北杜市にあるワイナリーBEAU PAYSAGEの岡本英史さんという事なんですけど、これはどういう経緯ですか?
【森】岡本さんはワインだけではなくて、ワインと共にお食事をいただく環境やBGMだったり、ワインを取り巻く全てのものを大事にしている方なんです。それに、関わっているみんなに、均等に利益が上手く循環していくような社会を目指している方でもあって、その一環で音楽にもすごく興味を持ってくださっていて、BEAU PAYSAGEでも“ワインに合う音楽集”というテーマで、コンピレーションアルバムとかも出していらっしゃるんですね。
数年前に知り合ったんですけど、ちょうどコロナでライブが出来ない時に、「うちの畑から配信してみると良いと思う」と、声をかけてくださって、先ほど少し話題に挙がったブドウ畑からのライブ配信が実現したんですよね。
その流れで、岡本さん自身がコロナ禍の状況にすごく心を痛めていて……。そういう状況に寄り添う作品をつくってみたいという提案から生まれたアルバムでした。歌は入れるんだけど、歌詞をつけて方向性を持つのではなくて、「2020年が、どのような1年だったかを振り返るような作品」という依頼で出来たのが、『2020』という作品なんです。
【山崎】この作品は同じく北杜市にあるやまびこホールで録音をされました。そして、音源のダウンロードコードと、北杜市にある工房・アトリエ ヨクトの木皿のセットという形で販売されたんですね。
【森】そうですね。CDとしては、作らなかったという事です。
【山崎】これも、岡本さんの提案ですか?
【森】そうです。実験的な部分はあるんですけど、「土に還らないものを、なるべく使わないようにしたい」というのが岡本さんの希望だったんですよね。ただ、ダウンロードコードだけを出すのは味気がないから、買った人には何か形のあるものを手に取ってもらいたいという事で、この形になりました。パッケージを開けたらCDと同じようなサイズの木皿が出てきて、好きなように使ってもらえるという感じになっています。
【山崎】素晴らしい話だなって思います。
【森】ありがとうございます。ダウンロードというシステムに、慣れ親しんでいないお客さんで戸惑った方はいらっしゃったんです。だけど、“目標や希望があって、それに沿った形にしていく”という意味では、ベストな状態で完成できたのかなとは思っています。
【山崎】土地や場所を“音楽”という今までのパッケージを超えて、繋いでいく感じがしますよね。
演奏会の総合プロデュースをやって欲しい
【山崎】最後のパートは、ゲストの皆さんにお伺いしていることをお聞きしたいと思います。僕、山崎晴太郎とコラボレーションするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?
【森】あまり演奏会で他の人に協力してもらった事がないので、演奏会の総合プロデュースをしてもらいたいです。場所選びから、空間演出や私の衣装、あと告知のビジュアルも全部。私の曲だけを聞いて、思った通りのイメージにやっていただくのを見てみたい。
【山崎】僕も見てみたい(笑) ビジュアルを作るのは普段の感じなんですけど、イベントはあまりないな……。面白いかもしれない。ちょっと前向きに相談します。
【森】わーい!
【山崎】そして、この番組のコンセプトである、「文化百貨店」という文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一角を与えられたら、そこでどんなモノを扱いたいですか?
【森】難しいですね……。ライブのツアー先で、塩を買ってくるのが好きなんですよ。その土地のものを
【山崎】塩って、土地ごとにそんなにあるんですか?
【森】あるんですよ!わりと味も違うし、テクスチャーも違うんです。個人的には日本海の塩が……。
【山崎】「粗いのかな?」としか想像できないんですけど(笑)
【森】そうです!苦みもあるし、粗々しい感じもするんですよ。集めて食べ比べると、結構面白い。多分、その土地の文化に合わせているんだと思うんですよね。
【山崎】言われてみて初めて気づきましたけど、塩とその土地の食文化って、繋がっているはずですもんね。
【森】食材と塩って、結構合わせ方があるのかなと思います。
【山崎】ありがとうございます。コロナ禍で、先が見えづらいのかなと思うんですけど、今後の予定などで何か決まっているものがあれば、教えてください。
【森】8月29日に福島県の三春町という長閑な町で、今ユニットを組んでいる“みどり”という、ギター2人と私の演奏会が決まっています。その他も含めて、ホームページ上で、今後またお知らせを更新が出来たらいいなと思います。
【山崎】作品の中に内包されているから、言葉もすごく聞きやすかったですね。すごく心地いい時間だったなと思います。ありがとうございました。
といったところで、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、お盆休みの最終日ということで、山崎がプライベートで興味を持っていることをお話するソロ回をお送りします。
今週の選曲
森ゆにさんの楽曲
山の朝霧 / 森ゆに
森ゆにさんのアルバム『山の朝霧』から
森ゆにさんのリクエスト
I Remember / Molly Drake
山崎晴太郎セレクト
Candyland feat. Jonsi / Sin Fang