2021.09.19
濵本 祐介 vol.1
9月19日の文化百貨店のゲストは、盆栽作家の濵本祐介さん。今回は、濵本さんが手がけた盆栽が置かれているビスポークテーラーのWisdom Toolにお邪魔をし、盆栽作家という職業や盆栽作家になった経緯ついて伺いました。
盆栽は鉢の中で自然を構成するもの
【山崎】以前、番組に出演頂いたWisdom Tool代表の高橋康太朗さんに紹介いただいて、盆栽作家の濵本祐介さんに遊びに来ていただいています。皆さん何となくしか盆栽を知らないと思うんですけど、そもそも盆栽って、どういうものなんですか?
【濵本】ものすごく簡単に言うと、“鉢の中で自然の景色を表現する”ものですね。
【山崎】盆栽は1本の木だけではなくて、色んな物を組み合わせるというスタイルもあるんですか?
【濵本】そうですね。1本で木の迫力を見せるスタイルもあるし、林や森を表現するために木を何本か植えるというものもあります。
【山崎】縛ったり、曲げたりするじゃないですか?あれは、どういう事なんですか?
【濵本】木は、放っておくと上に伸びていくんですよね。だから、針金を使って自分の好きな方に動かして、“風が流れていく”という自然の景色を表現しているんですよ。人がつくり出す物ではなくて、あくまでも自然の景色をつくるような感じで、針金で誘導しています。
【山崎】すごく時間かかりますよね?
【濵本】結局、木も盆栽も生き物だから、完成とか終わりが無いので、良くし続けていくような感じですね。
【山崎】僕は植物が好きで、生け花もしているんです。盆栽も気になって、何度か買ったことがあるんですけど、まんまと枯らしてしまいました……。盆栽を買ったら、どうしたら良いんですか?
【濵本】盆栽に使われる素材は、日本の屋外の環境に適している植物なんですよ。基本的には屋外で、日の当たる風通しの良い場所が絶対条件ですね。限られた鉢の中で根っこが生えているので、水やりが1番大事になってくる。それが上手くいかないと、最終的に枯れちゃったりすることは考えられるかなとは思います。
【山崎】これも聞きたかったんですけど、外にある松の木はスケールが大きいじゃないですか?それが盆栽になると、自然にスケールが小さくなる感じがするんですね。盆栽の始まり方として、切った枝を植え替えて始まっていくんですか?
【濵本】挿し木や取り木とか、色々パターンがあるんですよ。元々、種から植物は育つんですけど、それを「実生(みしょう)」というんです。種から実が出て、木になっていくという実生のものは、木としても価値があります。
【山崎】実生のパターンだと、すごく時間がかかりますよね?
【濵本】僕の代では終わらないですね。例えば、僕の親方から頂いて、受け継いでいる木もあるし。1代、2代、3代と、植物は人間よりも長く生きるので、脈々と続いていく感じです。
「良いな」と思うことを選んで広がった活動のフィールド
【山崎】21歳の時に、盆栽作家になるための修行を始めたということですが、きっかけはあったんですか?
【濵本】僕もたまにきっかけを考えるんですけど……気が付いたら始めてた(笑)
【山崎】「そこに山があるから」みたいな(笑)
【濵本】そんな感じですね。
【山崎】どんな修行をするんですか?
【濵本】「水やり3年」とか言うんですけど、最初は水やりばかり。盆栽って、人と一緒なんですよね。同じ松の木でも、根っこや木の状態が全部違うんですよ。だから、人によって水を飲む量が違うのと同じで、1つ1つの木に対して適切な管理をするのに、水やりを3年して、ようやく分かってくる感じですね。
【山崎】修行を経て独立してからは、MOMAデザインストアでの展示販売、家具やサーフブランドやアパレルというカルチャーフィールドとコラボレーションや海外でも積極的に活動をされています。既存の盆栽のイメージを徐々に脱却して行っているのかなと思うんですけど、きっかけはあったんですか?
【濵本】それも盆栽を始めたきっかけと一緒で、僕自身が「フィールドを広げよう」という思いが全く無いんですね。たまたま仕事でご縁があった中で「1番いいな」と思う事をやってきたというだけであって。
【山崎】コラボレーションすると、そのブランドの要望とか世界観があるじゃないですか?盆栽は「未来のことを見ている」、ファッションは「今の空間を見ている」という感じで、見ている時間軸が違うイメージがあるんですけど、その中で、どうやって折り合いを付けていますか?
【濵本】これを言って良いのかは分からないですけど、どういった表現をするのかというのを僕自身が決めていることは無くて。僕の仕事は、盆栽をつくる事なので、そこまでが役割かなという所ですかね。
【山崎】その自由というか、自然体な感じが、色んな所で派生していって、成果に繋がっているのかもしれないですよね。
【濵本】そうなんですかね?まだ、そこも追及しているというか。僕自身、答えが見つかっていないのかな。
「いい木だね」と盆栽が褒められることが嬉しい
【山崎】濵本さんの盆栽作家としてのスタンスみたいなものを聞いてみようかなと思うんですが、作品という意識なのか、自然があって自分がそれを支えているという感覚なのか、それともフリースタイルな感じなのか……。どういう感じで盆栽と向き合っていますか?
【濵本】ぶっちゃけると、自分がやりたいようにやっていますね。ただ、繰り返しになるんですけど、やはり自然を表現するものなので、山や公園に行くでも、ネットで盆栽の写真を見るでも良いけど、常に自分の意識に入れていかないと、どうしてもつくれないですね。
【山崎】なるほど。「今回は、このテーマで」という感じで、向き合っていくんですか?
【濵本】木の良さを出そうと考えますね。盆栽は“見た目のもの”なので、短所はなるべく隠して、長所を出すように。僕が決めたテーマというよりは、その素材に対してつくるという面が大きいですね。
【山崎】なるほど。僕がやっている生け花は、限られた中で空間構成をするんですね。当然、花の顔があって、その中で、どれを受けて構成していくかという事なんですけど、それと同じような感覚なんですかね?
【濵本】感覚は似ているかもしれないですね。
【山崎】木が持っている表情とか、良いところに時間をかけ合わせていく感じですよね。
【濵本】そうです。今日の収録でも一緒じゃないですか?僕の良さを見つけていただいて、素材を使って引き出していただく感じですね(笑)
【山崎】なるほど(笑)盆栽って、上手くなるための練習とかあるんですか?
【濵本】技術は何でも一緒だと思うんですけど、練習をしたら上手くなると思うんですよ。だけど、自分の中の頭に入っていない景色ってやはりつくれない。ヒントはその辺に落ちているので、色んな景色を観るのが大事なんじゃないのかなと思います。
【山崎】ヒントを見過ごしている時、いっぱいありますもんね。
【濵本】例えば、お弁当も色彩があって、その空間美があるじゃないですか?常に自分の中でクエスチョンをつけて、探求するみたいなことが大事だと思いますね。
【山崎】すばらしいですね。数年前のインタビューで「本物だからこそ、伝統になる。斬新なアイディアや新しいものを作りたいという欲求が全くない」と仰っていたんですけれども、盆栽作家さんは作品に対してどういうスタンスなんですか?
【濵本】僕の個人的な意見ですけど、「盆栽作家」と言われる事に対してちょっとくすぐったいというか……。僕がつくった盆栽が世に出た時に、主役は盆栽なんですよ。「あの人すごいよね」とかをあまり求めてなくて、「いい木だね」と盆栽が褒められることがすごく嬉しいんですよ。それを陰で見て笑っていたい。
【山崎】それも自然と人間の関係性に近いような気もしますよね。
【濵本】そうですね。あくまでも主役は、盆栽。
【山崎】濵本さんの盆栽を見たい、もしくは買いたいと思った時には、どうすれば良いですか?
【濵本】最近はインスタグラムに写真を上げているので、DMをください。
【山崎】本当に、写真を見て欲しいですね。盆栽作家って聞くと、和服を着ていて、ゆっくり喋ってゆっくり動くみたいな、超ステレオタイプなイメージを持っている人も多いかもしれませんけど、濵本さんは真逆なんですよね。そういう所から、時代がアップデートされたり、文化が広がったりされると思うんですけど、お会いして僕もファンになりました。来週の話も楽しみにしています。今週のゲストは、盆栽作家の濵本祐介でした。
といったところで、今週の『文化百貨店』は閉店となります。次回も、原宿にあるビスポークテーラーWisdom Toolから、盆栽作家の濵本祐介さんとお送りします。
今週の選曲
濵本祐介さんリクエスト
Colorado Bluebird Sky / The String Cheese Incident
山崎晴太郎セレクト
Love Will Tear Us Apart / Worm is Green