2021.10.03
八木 太亮 vol.1
10月3日の文化百貨店のゲストは、株式会社オトナルの代表取締役・八木大亮さん。今回はアメリカを中心に注目を集めるオトナルが得意とする“デジタル音声広告”について、八木さんに伺います。
ラジオCM×インターネットから派生したデジタル音声広告
【山崎】オトナルさんは、デジタル音声広告領域に特化した会社ということですが、そもそも“デジタル音声広告”というのは、どういう言葉を指しているのでしょうか?
【八木】端的にいうとインターネットの音声メディアに流れる音声広告です。radikoでもデジタル音声広告が出ています。少し分かりにくいのですが、radikoの場合はラジオでCMを入れているパターンと、radiko側で挿入しているパターンの2種類があります。実は、リスナー側はその2つの区別がつかないし、リスナーごとに差し替えられたりもしています。
【山崎】差し替えというのは、いわゆるターゲティングのような事ですか?
【八木】そうですね。関東にいる人と関西にいる人だと同じ番組を聴いていても、違うCMが流れたりするということです。先程の2種類で言うと、サーバーから差し替えているものが、デジタル音声広告ですね。
【山崎】局の広告とデジタル音声広告とでは、どのくらいの比率なんですか?
【八木】媒体にもよりますけど、radikoの場合は、まだまだ局側のCMが多いと思いますね。
【山崎】radiko以外の媒体だと、どのようなものがあるんですか?
【八木】例えば、音楽ストリーミングサービスのSpotify、あとはYouTubeも最近YouTube Musicという音楽メディアを持っているので、そこにYouTube オーディオという音声広告を配信できるようになっています。あとは、日本でも段々と盛り上がってきているポッドキャストもですね。
【山崎】これは、いわゆるラジオCMが、インターネットの中に出てきているという認識で合っていますか?
【八木】仰る通りです。デジタル音声広告にも、いくつか種類があって、代表的なものの1つはラジオと同じような形の“完パケ”のパターン。もう1つは、YouTubeを観ていると15秒ぐらいの動画広告が入ってきますよね?ああいったものが、オーディオでもできる“挿入型広告”というのが、最近は出てきていますね。
デジタル音声広告と相性の良い商材はラジオと同じ
【山崎】広告という事は、当然クリエイティブも必要だと思うんですけど、いわゆるラジオ広告のようなテンションで受け取ればいいですか?
【八木】同じテンションで大丈夫です。30秒の完パケCMみたいなものを作っておいて入稿するパターンと、あとはパーソナリティが読み上げる、ラジオで言うと“生CM”のような形があります。そこは、ラジオと全く同じですね。テレビがインターネットと合体してYouTubeが出来て動画コンテンツになっていったように、ラジオもインターネットと合体したものとなってデジタル音声広告やデジタル音声メディアがあるような感じですね。
【山崎】最近のクリエイティブの流行りはありますか?
【八木】新しいものだと、イヤホンやステレオで左右で聴かれていることが想定されていて、360°オーディオのような、音が右から左に流れる、もしくは近づいてくるという臨場感のある立体的に聴こえる音声広告ですね。
【山崎】僕もCMを作るケースがあるんですけど、音声の広告となるとほとんど出番は無くて、恐らくコピーライターの領域が強くなってくると思うんですよね。
【八木】仰る通り、コピーライターが主ですね。文章の企画というか、どういう風に面白く伝えるかというと所が、クリエイティブには求められると思います。
【山崎】ラジオやテレビと比べて、インターネット広告は効果測定のような数値が、かなりストレートに出ますよね。デジタル音声広告も、そういった面ではインターネットになるという事ですよね?
【八木】そうですね。計測は出来ますね。
【山崎】どういうクライアントが、出稿するケースが多いんですか?
【八木】相性が良いのは、基本的にはラジオと同じだと思うんですけど、ビジュアルに依存しない無形商材。例えば、金融や保険の商品は、形が無いけれども「あなたを守ります」というメッセージがありますよね。そういうものは、相性が良いと思います。あとは、生活消費材ですかね。デジタル音声広告は、ブランディングに強いメディアなので、商品の認知が広がれば広がるほど、近くのスーパーやコンビニの店頭での売上が伸びるようになったりします。
逆に相性が悪いものは、視覚がないと理解が難しいもの。ファッションブランドの広告はアリですけど、1つの服が「かっこいい」 や「赤い」といわれても想像しにくいですよね。あとは、旅行業界も出稿はされていますけど、ちょっと相性が良くないのかなと思います。
デジタル音声広告市場の広がりは、コンテンツのイノベーションが鍵
【山崎】日本では、これから発展していくであろうデジタル音声広告なんですけど、アメリカでは急激にマーケットが大きくなっているんですよね?その理由は、どこにあるんですか?
【八木】いくつかの要因があるんですけど、1つは国土の違いですかね。国土が広く、移動の際に車に1時間30分ほど乗るのが当たり前の社会なので、元々ラジオ文化が根付いていて、衛星ラジオも強いという流れの中で、インターネットの音声メディアが人気になってきているようです。
あとは、私がこの業界に興味を持ったきっかけでもあるんですけど、ハードウェアの要因もあると思っています。2016年にAirPodsが出ましたよね。2014年には、スマートスピーカーが出ていますしハードウェアの進歩がいくつかあったんですよね。
そして、革新的なコンテンツが生まれている。ピーボディ賞という「放送のピューリッツァー賞」と呼ばれる、最高のコンテンツを表彰する賞があるんですけど、2014年に『Serial』というポッドキャストが初めて受賞したんですよ。それまでは、ラジオ番組が受賞していたんですけど、初めてポッドキャストが受賞した時に「これは、すごいぞ」となりました。
【山崎】『Serial』がすごく気になるんですけど、どういうコンテンツなんですか?
【八木】ジャーナリストが、ある殺人事件を実際に追いかけているドキュメンタリーです。「ここまで、作れるんだ!」と、みなさんが感じたのだと思います。
【山崎】日本でも、そういうのに近しいコンテンツは出てきているんですか?
【八木】日本では、コンテンツのイノベーションの答えが「まだ出ていない」と、私は考えていますね。海外のコンテンツを真似して、ホラーや犯罪系のものを制作したりするんですけど、日本での答えは、そこでは無いのではないかと思っています。
【山崎】そうなると、どこにあると思いますか?
【八木】もっとサブカルや声優文化が発展するんじゃないかという気がしています。声優文化って日本独特の文化なんですよね。
【山崎】確かにそうですね。ポッドキャストと聞くと、“個人的な場所”“プライベートトーク”というようなイメージがあったんですけど、そういうものでは無いんですね。
【八木】今も自分たちで配信していくという感じですよ。ポッドキャストは、iPodとBroadcast(放送する)を組み合わせた造語で、iPodでダウンロードして聞くというのが最初なんですけど、最近は、Appleのプラットフォームだけではなく、SpotifyやAmazon Musicでも聴けるようになってきました。配信者側からすると、色んなプラットフォームで、プロの音楽と並んで聞いてもらえるようになった。その辺りの理由もあって、発展してきている感じですね。
【山崎】そうするとポッドキャストにも広告枠がついて、ユーチューバーみたいなマネタイズも起きているという事ですか?
【八木】アメリカだと、既に起きていますね。デジタル音声広告市場が伸びているのは、ポッドキャストのおかげなんですね。
【山崎】全然、知りませんでした。
ポッドキャスターの作った番組が人気を集めつつある
【山崎】日本では、どうしたら音声広告市場が広がっていくんですかね?
【八木】日本はとにかく聴いている人たちが、まだまだ少ないので、メディアもリスナーもどんどん増やしていかないと行けないという課題があります。その理由としては、コンテンツの爆発が、まだ起きていないと思っています。ラジオ局が番組はあるものの、もう少しイノベーティブなものが必要だと思います。先ほどの話と重なりますけど、アメリカだと「ポッドキャスター」と呼ばれる人たちが出てきていて。
【山崎】ポッドキャスター!?
【八木】個人だと一般の人だからやんちゃするみたいなのがあるじゃないですか?悪い意味ではなくて、好き勝手に、楽しい事だけをやるみたいな感じの番組で、すごく人気になっているものもあります。
【山崎】今日のお話を聴いて、ポッドキャストにもすごく興味が出てきたというか……。全然知らない世界なので、ぜひ深堀してみたいと思うんですけど、どうやったらそのようなコンテンツに辿り着けますか?
【八木】どのポッドキャストのサービスもですが、レコメンドでランキングが出ているので、その中で上位番組は当然ながら、すごくファンがついているんですよ。2年くらい前だと、まだまだラジオ局が上位みたいな感じだったんですけど、最近は個人の方が作った番組とかも入ってきているので。それを聴いてみると、面白いものが見つかるかもしれない。
【山崎】ちなみに、今の八木さんのおすすめはなんですか?
【八木】結構難しい質問なんですけど、僕が結構好きなのは『こんにちは未来』という番組です。『WIRED』の編集長だった若林恵さんと佐久間裕美子さんというニューヨークに在住しているライターの方が、日本とアメリカで話をしています。
テーマは政治とか社会についてなのですが、僕が面白いと思うのは、日本とアメリカに住んでいる方の差みたいなのがよく見えるんです。テレビ取材で、アメリカを映していたとしても、編集されているのでリアルな声ではないと私は思っていて。だけど、『こんにちは未来』では、住んでいる人たちが、お互いにそこの事情とか話しているので、すごくリアルなんですよね。友達からアメリカの話を聴いているみたいな。
【山崎】ありがとうございます。チェックしてみます。八木さんのお話が本当に面白いですね。新しい世界に飛び込めるみたいなのが僕はすごく好きなので、「ここに踏み出していいんだ!」と思えて非常に興味深かく聞かせていただきました。今週のゲストは、株式会社オトナル代表取締役の八木太亮さんでした。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。来週も八木太亮さんをお迎えして、日本でのデジタル音声広告市場を広げるための取り組みなどを伺います。
八木さんオススメのポッドキャスト『こんにちは未来』
今週の選曲
八木 太亮さんリクエスト
ラジオ・スターの悲劇 / バグルス
山崎晴太郎セレクト
君のうた /haruka nakamura