2021.11.28
岩澤 史文 vol.1
11月28日の文化百貨店にお越しくださったのは、スケーター・動画クリエイターの岩澤史文さん。「スケボーで社会を変える」をポリシーに、チャンネル登録者数21万人を超えるYouTubeを通じた発信をはじめ、幅広い活動をする岩澤さんのベースとなっている想いからお伺いしていきます。
帰国子女として受けたカルチャーショックから救ってくれた、スケートパークの人たち
【山崎】5~6年程前から、興味を持ってスケートボードを始めたんですけど、しばらくやっていなくて、この間久しぶりに子供とスケートパークに行ったら、すごく混んでいました。これもオリンピックの影響なんですかね。という事で、今回はスケートボードに関する方に、来ていただきました。岩澤史文さんです。
【岩澤】よろしくお願いします。
【山崎】33歳くらいの時にスケボーを始めて、今39歳なんですけど全然上手くならないんですよ(笑)
【岩澤】若い子の上達するスピードが異常に速いんですよね。
【山崎】スケボーって難しいですよね?
【岩澤】めちゃくちゃ難しいですね。難しくて、9割ぐらいの人が辞めちゃいますね。
【山崎】そうなんだ。史文さんは、色んなチャネルでスケボーの魅力を発信されていますけど、なぜ始められたんですか?
【岩澤】小学校6年生の時に初めてスケボーに乗ってからずっとやっているんですけど、それまでドイツに住んでいたんですね。6年生の時に日本に帰ってきて公立の小学校に入ったんですけど、海外とのギャップが凄くて、全然合わなかったんですよ。
【山崎】教育とかカルチャーとか?
【岩澤】そうですね。外国人扱いをされて、いじめに遭ったりして、不登校になっちゃったんですよ。その時に親が「家にいるくらいなら、スケボーをすれば?」とスケボーをくれたんですよ。それで平日に、学校に行く代わりにスケートパークに行っていたんですけど、居心地がすごく良かったんです。
スケートパークの人たちは、「どうして学校に行っていないの?」とか「何で見た目が日本人っぽくないの?」という事は聞いてこない。そんな自由な感じがすごく良くて、コミュニティに魅かれて、どんどんハマっていきましたね。
【山崎】スケボーをやっている人って、みんなコミュニティの話を言いますよね。テクニックや競争というより、コミュニティが重要視されている印象があって、それがすごい面白い文化だと思っているんです。
【岩澤】スケボーって“周りと違う事が良い”という考え方があって、多様性をすごく尊重する文化があるんですね。お互いの個性を褒め合って仲良くなって、自由な感じのコミュニティに居心地が良くてハマる。そうしたら、長くそこにいるから、上手くなったり強くなっていって、どんどんハマっていくというパターンが多いと思います。
【山崎】なるほどね。「スケボーで生きて行こう!」と思った、きっかけはあるんですか?
【岩澤】僕の場合は、“スケボーが好き”というのと同じくらい“スケボーを一緒にしている仲間が好き”というのがあります。スケボーはアクティビティというより、“ライフスタイル=生き方”なので、周りにそのコミュニティがあって、仲間があって、僕の生き方になっているので、生き方としてスケボーがあるという感じなんですよね。
スケーターというライフスタイルを発信するYouTubeチャンネル『MADskater』
【山崎】色んなチャネルで情報を発信されていますけど、始めたきっかけは何だったんですか?
【岩澤】僕がスケボーを始めたときは、他のスポーツみたいにスクールが無くて、学ぶ場所が無かったんですよ。だから、基本的にはオンラインで海外の映像を観たりして、学ぶみたいな感じだったんです。でも、もっとやり方とかを説明している動画や教材がネットにあれば面白いし、これから始める人たちの為になるのではと思って、最初に技のチュートリアル動画をアップしたのかきっかけです。
【山崎】その情報発信が、登録者数21万人を超えるYouTubeチャンネル『MADskater』ですよね。
【岩澤】もう10年くらいやっているんですけど、スケボーを軸にした動画を投稿しています。最初はチュートリアルを中心にアップしていたんですけど、スケボーの魅力を伝えるのはすごく難しいんですよ。オリンピックのような競技としてのスケボーもあるんですけど、先ほど話したようにライフスタイルという側面も強いんです。
でも、ライフスタイルを伝えるのは難しいじゃないですか?なので、動画ではスケボーも見せながら、僕のライフスタイルをシェアすることで、スケーターはこういう生き方をして、こういう仲間との交流があって魅力的なんだよというのを配信しています。
【山崎】史文さんが考えている、“スケーターのライフスタイル”について、を教えていただいてもいいですか?
【岩澤】 “自由”という言葉がキーワードだな思っています。それを僕が感じた瞬間があるんですけど、小学校6年生の時にいじめられていて、周りの視線がすごく気になっていたんですね。そんな頃に、スケートパークに行ったら、そこでは“周りと違う”というが尊重されていて、違う事をすると「それ、いいね!」となったんです。その時に、周りをそんなに気にしなくても、自分の思う事をすれば、それが正しいということもあるんだという事に気づいて、スケボーにハマっていきました。だから、“スケーターのライフスタイル”というと、あまり周りと同調する事が無いと言うか……。
【山崎】足並みを揃えるという事が無い?
【岩澤】そうですね。自由な生き方を尊重し合う文化なので、必ずしもスケボーがそこにあるわけでも無いんですけど、“スケボーがある自由な生き方”だと、僕は勝手に思っていますね。
【山崎】先程、スケボーを始めるためのスクールが無いという話がありましたけど、最初はどうやって始めればいいですか?
【岩澤】まず、スケボーを買うんですけど、最初は分からないことも多いと思うので、スケートショップに行って、「自分に合ったスケボーは何ですか?」と聞くのが一番良いかなと。店員さんが、大体スケーターなので詳しく教えてくれますよ。あとは、「どこでスケボーが出来る」とか「どこで教えもらえる」という情報を聞くことができるので、スケボー自体はネットでも売っているんですけど、最初はお店で買うのがオススメです。
【山崎】確かに、全然知識が無いですもんね。僕も最初は、ムラサキスポーツに行きました(笑)
東南アジアの社会問題を知った上で、スケボーにどんな力があるのかを見ていく
【山崎】史文さんは、スケートボードの魅力を世界に広める「SkateAid」という活動もされています。この活動について、少し教えてもらえますか?
【岩澤】東南アジアの途上国を訪問して、その国の孤児院や小学校でスケボーを教えたり、スケボーを施設に提供したりする、様子を日本でも配信していくというプロジェクトです。
僕は、元々旅行が好きで、バックパッカーとして東南アジアを周るという計画を友達と話していたんですけど、その時に「スケボーを持って行ったら良いんじゃないか」という話になったんです。それで、せっかく持っていくなら、何か面白いことが出来ないかと考えて、「訪問した国の孤児院や小学校に行って教えよう」となって始まりました。
【山崎】東南アジアでのスケボーの認知度は、どうなんですか?
【岩澤】町で数人がやっている程度で、ギリギリ知られているような形ですね。途上国だと、スケボーは輸入品なので価格が高いんですよ。なので、一部の裕福な人しかできないものという感じです。
【山崎】あと、路面とかを考えると、「どこで滑るんだろう?」って気になるんですけど……
【岩澤】意外と路面は良かったりするので、滑る場所は全然あります。
【山崎】そうなんだ。SkateAidでは、現地の孤児院や小学校に行くという事ですが、アポイントを取って行くんですか?
【岩澤】まったくのノーアポイントメントで行って、ピンポンを鳴らして、「スケボーを持ってきました」みたいな(笑)
【山崎】相手は、どういうリアクションが多いんですか?日本だと、スケボーに偏見が合ったりするケースもあるじゃないですか。
【岩澤】偏見とかは無いんですけど「何それ?」みたいな感じで見られるので、まずは説明をして「みんなに乗らせてあげたいです」という話をすると、ウェルカムな感じになりますね。
【山崎】子供たちのリアクションは、どうですか?
【岩澤】子供達も、スケートボードを見たことも乗ったこともないので、最初は怖がって、誰も乗ろうとしないんですよ。でも、一人目が乗って、楽しそうにしているのを見ると、「私も!僕も!」という感じで列が出来て、毎回すごく盛り上がりますね。
【山崎】普段のフィルターを超えるギアが、カルチャーには確実にあると思うので、どんどん広がっていくと良いですよね。今まで、どのくらいの国を周られたんですか?
【岩澤】9カ国40施設くらいを訪問しました。ネパールから始まって、タイ、ミャンマー、ラオス、インド、スリランカとかに行きました。
【山崎】勘所の良い子が多い国があったりしますか?
【岩澤】この国が、すごく上手いとかは無いですね。子供は純粋なので、意外と国による違いも無くて……。
【山崎】この活動は、これからも続けて行くんですかね?
【岩澤】そうですね。ここ1年は、コロナ禍の影響で出来ていないんですけど、ずっと続けていく予定です。
【山崎】SkateAidでの活動もYouTubeチャンネル『MADskater』で配信されていますよね。その中で、スリランカのごみ問題など色々な社会課題も紹介されているじゃないですか。それには、どんな意図があるんですか?
【岩澤】なるべく多くの日本の方に、現地の問題を知ってもらう事は、すごく意味があると思っていますし、現地の社会問題や現状を踏まえた上でスケボーを教える事で、スケボーがどんな力を持っているのかを発信できればと思っています。だから、そういう社会問題もバックグランドとして入れるようにしています。
「その街でスケボーが流行ったら面白い」ネパールにパークを造るプロジェクト
【山崎】これまでの活動の延長というか、繋がりだと思うんですけど、11/28までクラウドファンディングで支援を募っていた“ネパールでスケートパークを作るプロジェクト”についても、教えてもらえますか?
【岩澤】ネパールのブトワルという小さな町にスケートパークと作って、そこにスケボーをいっぱい提供して、その町でスケボーを流行らせようという作戦のプロジェクトです。
【山崎】何でネパールだったんですか?
【岩澤】過去に訪問した国なんですけど、僕がすごくネパールを好きになった事も理由の1つです。ネパールって真面目な所や控えめな所が、すごく日本人に似ている所があるなと思っていて、そういった所を好きになったんです。あとは、スケボーのコミュニティも多少はあったんですよね。それで縁もあって、ネパールだったらイケるのではないのかなと思って、作ることにしました。
【山崎】日本だと、スケボーはストリートよりもパークが全盛だと思うんですけど、海外だとみんな街中でスケボーをやっている感じなんですか?
【岩澤】そうですね。ストリートから生まれた物なので、みんな町や公園で一緒にやっていたりしますね。ネパールにもスケートパークはあるんですけど、近くに無かったりするので、みんな町中で自由にやっていたイメージですね。
【山崎】実際に異国でプロジェクトを実行していくのは、パワーもいるし色んな調整もいるし大変じゃないですか?
【岩澤】大変ですね(笑) 今回は、僕とドイツのNPOが協力して作るんですけど、スケートパークにする場所だったり、そもそも造れる人がいるのというのを探したりする所からやっています。手づくりで造るので、僕も12月に行って、造っていきます。
【山崎】通販で、ランプセットが売っているわけでは無いですもんね
【岩澤】そうですね。コンクリートで造っていくので、現地の人にすごく助けてもらっているという感じです。
【山崎】すごく壮大なプロジェクトですね。クラウドファンディングは終了しましたけど、ここから完成までは、どのように進んでいくんですか?
【岩澤】クラウドファンディングは終了したんですけど、引き続き企業スポンサーを頑張って集めて、資金を集めながらになります。パーク造りとしては、現地の人とコミュニケーションを取りながら、進めてもらっているので、12月か1月くらいに、僕とドイツのNPOの人もネパールに行って、完成をさせていくというプランです。1月くらいには出来ていると思います。
【山崎】結構、すぐ完成するんですね。
【岩澤】そうですね。「スピード勝負で行こう!」みたいな感じです。ぜひ、追加のご支援があれば、お願いします(笑)
【山崎】これから、活動を支援したい場合はどうすれば良いですか?
【岩澤】僕に、直接連絡を頂ければと思います。公開しているEメールがあるので、ぜひそちらにお願いします。
【山崎】すごいですね。ドキュメンタリーで“初めて井戸を掘って水を通した日本人”みたいなのが、あるじゃないですか。今日の話を聞いて、それを思い出しました。30年後くらいに、“この国のスケートボードはここから始まった”みたいなドキュメンタリーになってそうですよね。
【岩澤】「何もない街から始まったスケートボード」みたいな(笑) その街で、スケボーが異様に流行っていたら面白いじゃないですか。そこでコミュニティが出来て、そこからオリンピック選手が出る事になれば、すごく良いことだなと思っています。
ネパールにスケートパークを造るためのクラウドファンディングページ(※募集は終了しています)
【山崎】なるほどね。ありがとうございました。史文さんの真っ直ぐな話を聞いていて、自分が「濁っているんだな」って思いました(笑) 僕が印象的だったのは「ネパールで(スケボーが)流行ったら楽しいじゃないですか?」という一言。この言葉が、史文さんをすごく現わしているなと思いましたし、自分もそういう風に生きて行きたいと思いました。来週のお話も楽しみです。本日のゲストは、スケーター・動画クリエイターの岩澤史文さんでした。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。来週も岩澤史文さんをお迎えし、今年出版された著書やスケーターのためのオンラインサロンについてお伺いします。
今週の選曲
岩澤史文さんのリクエスト
Pumped Up Kicks / Foster the People
山﨑晴太郎セレクト
Get Sun (feat. Artur Verocai) / Hiatus Kaiyote