2021.12.19
山口 将司 vol.2
12月19日の文化百貨店にお越しくださったのは、先週に引き続き、鮨将司・店主の山口将司さん。今週は、ミシュランガイト2022東京で、一つ星を獲得した鮨将司のお店へのこだわりをお聞きしていきます。
お客さんの目線を意識した振舞と店づくり
【山崎】“店主”という風に山口さんをご紹介していますけど、お鮨屋さんに伺った際には何と呼べば良いんですかね?よくあるのは“大将”ですけど……。「大将」って言うと、“通っぽい感じで見られたいのでは?”って思われたりしないですかね(笑)
【山口】いや、そんなこと無いと思いますよ(笑) “大将”で問題ないと思います。
【山崎】では、これからお鮨屋さんに行った際には、大将って呼んでみます。
去年の6月に独立、開業されましたけれども、1番大きかった変化は何でしたか?
【山口】気持ちの所ですかね。先週もお話しましたけれど、お客様への感謝はすごく大きいです。コロナ禍でのオープンでしたし、無名なところからお客様へ来ていただいて、感謝しかないと思っています。
【山崎】このお店は、ビルの5階にありますよね。その辺りも、狙いがあるんですか?
【山口】こだわった所は階数よりも、ビルへの入り方ですね。お客様が車寄せしやすい所が良いなと思っていたのと、大通りに面していても入り口が脇にある所だと人目に付かず入れるので、そういう条件を探していました。そうしたら、今の所が見つかりました。
【山崎】青山通りからすぐの立地で、外苑西通りに面しているけど、ビルの入り口は脇道にあるので、理想的な場所ですよね。
店内は、メインとなるカウンターが9席、あとは4名用の個室で構成されています。この作りへのこだわりを教えていただけますか?
【山口】最初はカウンターをL字にするというアイデアも有ったんですけど、一枚板を入れられるスペースがあったので、それにこだわって国産のヒノキの一枚板を使った真っすぐのカウンターにしました。ヒノキは、曲がって育つのが多いみたいなんですけど、非常に珍しく貴重な“真っすぐ育ったもの”を使っています。
施工会社の方がすごく良い方だったので、親身になって話を聞いてくれたり提案をいただいて、一緒になって考えて作っていただきました。
【山崎】カウンターって、ストレートやL字など色々な形状がありますよね。やりやすさが違ったりしますか?
【山口】そうですね。L字の方が、行ったり来たり出来るので、やりやすさはあると思います。最初は、それも良いなと考えたんですけど、良い一枚板と出会えたので、ストレートに決めました。
【山崎】カウンターは、鮨屋のこだわり所ですよね。我々はカウンターの中に入ることはないので、反対側から職人さんの仕事ぶりや所作を「美しい」と思いながら見ています。そういう目線は、意識をしているんですか?
【山口】見られるという事は、常に意識をしていますね。客席に実際に座って、「どういう目線になるのか?」や店内が汚れていないかなど、お客さんの視界全体を意識して、振舞や掃除を心がけています
【山崎】他の料理は作られたものが、お客さんに出てきますよね。でも、鮨は調理からサーブまでが一体化していて、かつプロセスまで見せている稀有な料理だなって感じるんですよ。魅せる要素がありながらも、出てくるものはすごくシンプルで、すごく芸術性が高い食文化ですよね。
【山口】ありがとうございます。
【山崎】山口さんのお鮨って、画映えするというか見た目も美しいですよね。SNSでも映えそうですけど、写真を撮られるのをどう思っていますか?
【山口】“楽しく食事をしていただきたい”という想いがあるので、料理がおろそかにならない範囲で撮っていただくのは、まったく気にならないです。ただ時間が経つと、鮨が乾いたり温度や表情が変わってしまうので、パッと写真を撮って召し上がっていただければと。
【山崎】SNSに写真を上げてもらう事で、広がったりしますもんね。お鮨屋さんのカウンターって、お客さんも職人さんもお互いに、「何を喋ろう?」と戸惑う時もあると思うんですよ。トークの場面は、どれくらい意識されていますか?
【山口】「鮨を食べに来ているのだから、会話をする必要は無い」という板前さんもいるかもしれないですが、僕は会話もしたいですね。リラックスして召し上がっていただきたいので、僕から話しかけますし、お客様から話しかけていただいても大丈夫です。
【山崎】そうなんですね。でも、「今はちょっと話せない……」みたいなタイミングは無いですか?
【山口】修行時代に、「話しかけられないオーラを出すのも、一端の板前の腕だから」と言われたことがあるので、お話するのが難しい時には、“話しかけられたくないオーラ”を作る事はありますね。
【山崎】板前さんって、やる事がいっぱいあるんですね。料理はもちろん、喋りもやらないといけない。それに朝も早いだろうし、夜も深かったりしますよね。結構、大変じゃないですか?
【山口】大変と言えば大変ですけど、僕の店はオープンして間もないという事もあるので、いらっしゃったお客様に、満足して帰っていただきたいという気持ちが強いですね。今はまだ、そこに必死になっているというか、そこばかりを見ているという感じですかね。
【山崎】お鮨屋さんは、人にお客さんが付くのかなと思っているんですよ。お店なんだけど、大将に魅了されていく感じですよね。そんな中で、スタッフの方とはどういう距離感で接していますか?
【山口】募集をして来てくれたスタッフもいますけども、僕が所属していたサーフショップの後輩や高校の同級生も働いてくれているので、僕としては「一緒に成りあがろうぜ!」という感じですかね。
【山崎】本当にチーム感があるんですね。今も、サーフィンに行かれるんですか?
【山口】サーフィンには、初心に帰ったりとか、「シンプルに考えないとダメだな」とか気付かされる部分があると思うので、今でも行ったりします。
料理にもその時の味やトレンドがある
【山崎】お鮨は季節感がすごく出る料理だと思うんですけど、年末はどんなネタが良いんですか?
【山口】これからは、マグロが抜群に美味しい時期ですし、あん肝などの肝系も良いですね。鱈や河豚の白子も出てくる季節ですね。
【山崎】山口さんが、注目されているネタってありますか?
【山口】質問とは違う答えになってしまうんですけど、鱈の白子を裏ごしして、蛤の出汁とシャリを合わせてリゾットっぽくしたものに、焼いたのどぐろを乗せた一品ですね。これは、去年も店で出して、評判が良かったので、この季節にオススメ出来る料理です。
【山崎】テスト的に出して、お客さんの評判が良かったから、レギュラーにしようという流れはあるんですね?
【山口】ありますね。
【山崎】逆に、あまり評判は良くなかったけど、山口さん自信を持っているというパターンはあるんですか?
【山口】そういうものも、あります。
【山崎】そんな時は、「そのうち時代がついてくる……」みたいな気持ちになるんですか?
【山口】そんなことは無くて、「自分が違ったのかな?」と考えますね。音楽やファッションと同じかも知れないですけど、料理もその時のトレンドになる味や見せ方、表現の仕方は常に勉強しなきゃいけないと思っていまして。上手く時代と料理に合わせられたら、お客さんの反応も良いと思っています。
【山崎】そういう意味では、お鮨屋さんにも色々なスタイルがあると思うんですけど、他のお店に行って研究をしたりするんですか?
【山口】はい、食べに行きます。ジャンルを問わず、色々なお店に行ったりしています。
【山崎】こっそり行くんですか?
【山口】名乗っていく場合もあります。共通の知人などの繋がりから行ったりする事もありますし。
【山崎】なるほどね。お鮨屋さんには、格言的な言葉が結構あるじゃないですか。“基本は赤身”や“違いは玉に出る”といった言葉は、意識されていますか?
【山口】そういう所に、違いが出ると感じる部分はありますね。玉子焼きなんかは“仕事をしている”ものだと思うんですよ。だからこそ、店の特色がモロに出ると思うので、違いや意識がそういう言葉に出ているのかもしれないですね。
【山崎】「玉子では負けられない!」みたいな気持ちはあるんですか?
【山口】玉子焼きもその1つですし、お醤油もしかり。他の仕事も含めて、そういう想いはありますね。
【山崎】なるほどね。初めてのお鮨屋さんに行ったら、最初にどこを見ますか?
【山口】僕はコハダが好きなので、コハダを見ちゃいますね。どんな感じで仕込んでいるのかとか、そういう所を見ます。
【山崎】そこは好みが反映されるんですね。お鮨屋さんに行った時に「この人、分かっているお客さんだな」と思ってもらうには、何をすれば良いですかね?
【山口】意気込んで何かをするよりも、「今日は、よろしくお願いします」という感じで来ていただけると、板前の方も「こちらこそ」という気持ちになりますかね。
【山崎】素直に楽しむのが、良いという事ですね。
人生の特別な日に、選んでもらえる店でありたい
【山崎】最後のパートは、みなさんにお聞きしている事を質問していきます。僕、山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたら、どんなことをしてみたい、もしくは出来ると思いますか?
【山口】すごく難しいですね……
【山崎】サーフショップですかね(笑)
【山口】なるほど!Surf & Caffeeですかね?
【山崎】山口さんとお話をしていて、鮨とサーフィンの話はすごく新鮮でした。精神性を含めて、通じるものはありますよね。
【山口】そうですね。僕らは、モノとして料理は提供できるけど、空間はデザインできないので、そういった所では晴太郎さんとコラボレーションできるところだなと思いますね。
【山崎】カルチャーとして生み出せたら、本当に面白いなと思いますよね。
そして、文化百貨店という架空の百貨店で、バイヤーとして一画を与えられたらどんなものを扱いたいですか?
【山口】やはり、お鮨ですかね。
【山崎】それは、そうなりますよね(笑)
コロナ禍で、飲食店ではデリバリーやテイクアウトが広がっていたり、お鮨屋さんも色々な取り組みをされていると思います。そんな中で、鮨将司は、どんな存在でありたいですか?
【山口】お食事やお鮨が有っての話ではありますが、居心地の良い空間や食事を楽しんでいただける存在でありたいなと思います。レストランの良いところは、色んなストーリーがある所だと思うんですよね。プロポーズや誕生日、自分へのご褒美などに選んでいただけるような、そんな時に使っていただけるような存在でいたいというのは、すごく思います。
【山崎】“人生の大事な瞬間”に、寄り添う存在でいたいという事ですよね。最後になりますが、今後の予定や計画をしていることがあれば教えてください。
【山口】“世界を相手に商売をしたい”という想いがあるので、お鮨という文化を世界へ発信することが出来たら良いなと思っています。
【山崎】ありがとうございます。2週に渡って山口将司さんとお送りしました。僕は、年末に鮨将司さんにお世話になるだろうなと思っています。もし、興味を持った方は、ぜひ電話で予約をして、山口さんの鮨を堪能してみてください。
といったところで、今週の文化百貨店は閉店となります。2021年最後の放送となる次回は、ゲストはひと休み。文化百貨店的に、1年を振り返る形でお送りします。
今週の選曲
山口将司さんのリクエスト
Californication / Red Hot Chili Peppes