2022.01.02
山崎 晴太郎
新年あけましておめでとうございます。今年も、文化百貨店をよろしくお願いいたします。
2022年初回となる1月2日の文化百貨店は、山崎晴太郎が1人でお送りします。お正月という事で、“スタート“という言葉を頭の片隅に置きながら、お届けしました。
【山崎】新年あけましておめでとうございます。三が日の放送という事で、ゆったり聴いてくれている方も多いのかな。個人的には、年末のイベントにはあまり興味が無いんですけど、お正月は結構好きです。
というのも、いつも人がいる街に、人がいないというのにワクワクするんですよ。その感じが好きなんです。あとは、ずっとダラダラして良いと思えるのも、お正月だけですよね。それも、すごく好きです。
お正月と言えば、“おせち”ですかね。どの世代のコミュニティの中で過ごしているかによって、おせちとの向き合い方が違うと思うんですけど、うちの場合は妻の実家から色々貰ってきます。お義母さんが、近所の方と作り合って分け合ったりしているみたいで、それを頂いています。
おせちの中で、僕が好きなのは“栗きんとん”です。普段は日本酒をあまり飲まないんだけど、お正月だけは飲むんですよ。その時に、おせちをつまみにやるんですけど、他のものだとお腹が膨れすぎるというかね……。だから、栗きんとんの周りの部分―“きんとん”って呼び方で良いのかな?―が、丁度良いんですよね。
今年、2022年で40歳になります。どうやら、“前厄”というやつらしいです(笑) “前”と“後”が要るのかなっていう想いもあるんですけど、同じように40歳を迎える人は、厄払いに行って良い年にしましょう。
演劇から学ぶ表現手法と身体性
【山崎】去年の後半、番組を通じたご縁で、いくつかの演劇に招待いただきました。1つは、飯塚健さん演出・脚本・選曲の『コントと音楽Vol.3 くたばるものかよ』という作品。これは、ゲストに来ていただいた川久保拓司さんが出演されるという事でお招きいただきました。
会場が、丸の内のCOTTON CLUBで、真ん中に食卓のような長テーブルがあって、その周りを観客が囲むレイアウト。そのテーブルを中心に話が繰り広げられていき、お芝居の合間でライブ(歌)が始まるというようなパッケージでした。すごく自由な形だなと感じながら観ていました。
舞台や演劇もそうですけど、“ジャンル”に分けられるものは、基本的には、枠組みやルールみたいなのがありますよね。演劇だったら、“ホールや劇場でやります”とか、映画だったら“100分程度という尺間”で“映画館で二次元で観ます”という感じで、潜在的な縛りみたいなものがあると思うんですけど、『コントと音楽Vol.3 くたばるものかよ』を観て、自分の中のそういった縛りが取っ払われて、良い経験だったなと思います。
幼少期に演劇をやっていたこともあって、個人的には演劇にすごく親近感を持っているんですよ。ただ、僕がデザイナーやアートディレクターとして過ごしてきたのと同じ分だけ、演劇の世界に費やしている人たちがいるので、そこに対してリスペクトもあるし、介入する余地は無いなと思っていたんです。だけど、この飯塚さんの作品を観て、「ここまで自由な世界やパッケージであれば、もう1度演劇に介入できることもあるのかな」と少し思い始めたんですよね。
招待してくれた川久保さんとは、大学時代からの友人で、「どこかで一緒にやりたいね」という話をずっとしながら、まだ実現が出来ていないので、そういった仕掛けを作っていく年に出来れば良いなと思っています。
もう1つ観劇したのが、NODA MAPの『THE BEE』という作品。演劇のエネルギーが、ものすごく凝縮されているというか、とにかく凄かったですね。
演者さんは4人だけ。空間演出も舞台演出もすごくシンプル。舞台には、すごく大きな紙があって、そこに映像を投影したり、破られたりしていくだけという、プリミティブな演出なんです。そこで4人の演者が、1人で何役も演じながら話が展開していく。この最低限の要素だけで、演劇を成立させていくという所で、舞台の進化というか“舞台のチカラ”が、非常に凝縮されていると感じました。
舞台もそうですし、映像表現の時でも、演出の話のあとに“書割”が出てくる事が多いんですよ。書割っていうのは、舞台のセットによくある大道具で、板とかの平面にペイントをして、空間を表現しているやつです。例えば、森だったら、板に木をいくつか描いて、サイズ感を変えた板をいくつか用意をして、奥行きなんかを表現したりします。
何で演出の後に、書割なのかというと、そういうフラットな世界を持ってくる事で、コストを下げようという話に繋がってくるんですね。THE BEEの紙の演出も、それと同じレイヤーに感じられるんですけど、全然違うレイヤーに見える。シンプルにする事、プリミティブにする事が、決して表現の足かせにならないという事を感じさせられました。
デザインで言うと“Less but better” みたいな“引き算の美学”の中の、舞台としての1つ到達点じゃないかなと思うくらい、凄まじい作品でした。
フィジカルというか“身体性”というものが、僕の表現のテーマではあるので、どんな種類の舞台を観に行っても色々な刺激をもらっているなと思っています。
“意思を置き去りにする”新しい名刺のデザイン
【山崎】去年11月に、セイタロウデザインの事務所を2年半ぶりに移転しました。毎回テーマを決めて、空間を作っているんですけど、今回は“無機と有機の融合”をテーマにしました。天井をはがして、天井の下地のパイプが入っているところに、お花・挿花を組み合わせて空間を表現するという事をやっています。
僕は基本的に、「二律背反を1つにする」とか「二項対立のバランスを取る」といった、共存しない2つのモノをその概念の中の共存点を探る事が、得意というか好きなのかな?そういったことが、テーマになることが多いんですよね。白と黒という話や、色や形や概念とか色々あるんですけど、今回のオフィスもそういったテーマで作りました。あとは、事務所とは別にあったアトリエも移してきて、僕の作品も色々展示しているので、ちょっとした美術館みたいな感じにもなっていますね。
移転すると当然住所なんかも変わるので、そのタイミングで毎回名刺を作り変える事になりますけど、名刺は基本的に僕が全社員分デザインをしています。今回は、すごくシンプルなものになりました。これは今の気分みたいな所もあると思うんですけど、タイポグラフィーやデザインを研ぎ澄ましてきた結果、現在たどり着いたのが “自分が介入しないデザイン”みたいなものです。要は、“意思を置き去りにする”ようなデザイン。すくい上げたときに残る、たった1つの砂粒みたいなイメージでデザインをしています。なので、作ろうと思えば誰でも作れるというデザインですね。
具体的にどういう物かと言うと、“ヒラギノ角ゴシック”というフォントって分かりますかね?パソコンの中にデフォルトで入っていたりするので、一度は見たことがあるであろうメジャーなフォントなんですけど、そのヒラギノ角ゴのW3(ウェイト3)という、超普通の文字と太さだけを使って作ったんです。なので、「水のようなものを使って、どうやって美しいものを作れるか?」というような挑戦をしました。
こういうことはプロでないと出来ないと思っているんですけど、そこに自分の色が介在しないようにしているという事ですね。そして、ルールもすごくシンプルに作りました。
デザイン自体はシンプルなんですけど、紙と印刷にはこだわっていて、印刷は箔押しにしています。紙は、使ってみたかった「プライク」というのを選びました。プライクは、“プラスチック・ライク”の略なんですけど、触った時にしっとりとした、工業的な感触があるような紙です。人間の知覚は、五感からくるので、どれかを騙せば、全体に影響をしてくるんですよね。薄い紙に印刷したものと、触覚を伴う紙に印刷したものとで、受け取り方は全然違ってくるという事も考えながら、今回のデザインを作っていきました。
ポジティブにEVを選択するための連載企画
【山崎】僕が、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)務めるPLUGOという会社があります。電気自動車の充電インフラやエネルギーマネジメントを事業をコアにしているんですが、そのPLUGOで、去年10月に『PLUGO JOURNAL』というWebメディアを立ち上げて、編集長も担当しています。
EV、いわゆる電気自動車をどうやって楽しめばいいかとかを伝えるメディアになっているんですけれども、EVで行く旅先の話だったり、SDGsという環境意識の高まりに伴って世界中に色んな動きがあるのでそういったニュースとかを色々紹介しているんですね。
僕は基本的に、“我慢をしながら進んでいく未来”は肯定出来ないんですが、今、クルマを取り巻く環境は、そういった感じになりつつあると感じています。「〇年までにEV車の比率を〇〇%まで上げる」という話や、「CO2を削減するためには、内燃機関の車に乗ってはいけない」みたいな話になりがちなんだけど、ポジティブに変えていかないとダメなんじゃないかと思っているわけなんですよ。
どうせやるならポジティブにやってほしいし、どんなことでも基本的にはポジティブに出来るはずなんですよね。仕事も一緒だと思うんですけど、同じことを「楽しい」と思ってやるのと「やりたくない」って思ってやるのとでは、全然違ってきますよね。だからこそ、ポジティブな変化に繋がるものを、きちんと伝えて行けるメディアにしたいと思いながら運営しています。
そんなことを言いながら、まだEVに乗っていないんですよね。僕自身、ポジティブにEVに乗るシーンに、まだ出会えていんですよ。恐らく、世の中の多くの人も、そんな感じではなのかなと思うんですよ。普通に生活をしていて、「EVにすると超良くなる」というのはまだ見つかっていないので、それを見つける旅に出る必要があるのかなということで、PLUGO JOURNALで『編集長、EVを買う』という連載を今年から始めます。
この手の連載って全部で何話とか、この辺りのクルマを買うとか、出口が決まっているケースもありますけど、本当に何も決まっていないんですよ。だから、EVを買わないかもしれないし、ハーレーダビッドソンとかEバイクに行くかもしれない(笑) 色んな所に取材に行って試乗しながら、どういう車種があるのかとか、僕の食指が動くポイントがどこにあるのかというのを探っていく連載です。
ただ、やっぱり、社会全体が同じ方向に流れつつあるというか、「一気に行き過ぎると、少し危ないんじゃないのかな」と個人的には思っていたりしています。自分が本当に何が大事なのか、何を大事に生きていきたいのかみたいな事を、個人個人が持った上で、大きい流れに立ち向かうなり、その流れに乗る方が良いのではないのかなと思っています。この連載を通じて、そんな考え方やEVとの向き合い方を見つめてもらえるようになればなと思っていますので、始まったらぜひチェックをしてみてください。
といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、2022年最初のゲストの登場。YouTubeも人気のモータージャーナリスト・五味やすたかさんをお迎えします。
今週の選曲
山崎晴太郎セレクト
Enghave Lys / Henrik Lindstrand
iadxxxxxxxx / Hiroco.M
A Forest / Alva Noto