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2022.01.30

大島 新 vol.2

1月最後の放送となった30日の文化百貨店。ゲストは、先週に引き続きドキュメンタリー監督の大島新さん。今週は、ドキュメンタリーのつくり方からお聞きしていきます。

“作っては壊し”を繰り返して、練り上げていくドキュメンタリーの構成

【山崎】先週は、大島さんのキャリアや現在公開中の映画『香川1区』について伺いましたが、大盛り上がりでしたね。今週は、ドキュメンタリー映画のつくり方などをお聞きしたいと思います。今週もよろしくお願いします。

【大島】よろしくお願いします。

【山崎】早速ですが、ドキュメンタリーってたくさんの素材が必要になりますよね。でも、取材に行った時にドラマが起きるとも限らないと思うんですけど、やはりドラマが起きやすそうな取材対象を選ぶんですか?

【大島】その側面は有りますね。特にテレビだと、“初めての舞台が決まっている俳優さん”というような、ゴールが決まっているよう人は描きやすいですね。

【山崎】どうやって取材対象を探していくんですか?

【大島】ある程度著名な人ならば、おおよそ何をしている人なのかは分かりますよね。そうでない場合は、知り合いから話しを聞いたり、新聞や雑誌の小さな記事で知って、興味を持った場合もありますね。

以前、『ザ・ノンフィクション』でやったものですと、酒場で知り合って時々一緒に飲んでいた人から「足立区に悪ガキばかりを集めてキックボクシングをやっている会長がいて、この人面白いんだよ」というような話を聞いて、実際にその会長に会ったら本当に面白くて。それで、企画を立てたこともありましたね。

【山崎】どこに原石が転がっているのか、分からないものですね。

ドラマや映画だとシナリオに沿って画を撮っていきますけど、ドキュメンタリーはどこで何が起こるか分からない中で、カメラを回していきますよね。とは言え、ずっと撮っている訳にもいかないと思うんです。カメラを回す、止めるというのは、どう判断されているんですか?

【大島】ドラマや劇映画の脚本にあたるのが、我々の用語で“構成”というものです。構成を考えては壊し、考えては壊し、という感じなんですよね。ある程度経験を積むと、こういう事が起きているから、最終的にこういう番組になるというのが見えてくるんですけど、当たり前ですけど常にその構成通りにはならないんですよ。だから、作った構成をどんどん壊して、頭の中でまた作り直していく感じですかね。

【山崎】ドキュメンタリーの構成って、どういう風に作っていくんですか?

【大島】まず、撮れたシーンを取材の途中でもチェックしていくんですが、その中で「ここがキモだな」というのが見えてくるんですよね。そうすると「次はどういうシーンがあったら良いだろう?」とかを考えていく。もちろん、取材相手に狙いのシーンを頼んでやってもらう訳にはいかないんですけど、必要な要素は何だろうかと常に考えながらやっていきますね。

【山崎】欲しい画角や構図は、ある程度決めてから撮影するんですか?

【大島】最近は自分でカメラを回すディレクターも多いですけど、私はカメラマンが付いている場合が多いので、カメラマンとの相性にもよりますね。なぜかと言うと、相談して撮れるものと、撮れないものがあるんですよ。

例えば、「香川県の実景を撮りましょう」とか、「こういう所で使うから撮りましょう」というのは相談できるし、画角もモニターを見ながら相談することが出来ます。でも、ドキュメントで今起きていることは、相談できない。“神頼み”という感じにならざるをえないので、カメラマンとの相性もすごく大事ですね。

【山崎】先週のお話にもありましたけど、取材相手に信用してもらえないと、色んなものを晒け出してもらえないですよね。信頼関係を築いた上で、魂の言葉を拾ってくると思うのですが、相手との距離の縮め方で意識されていることはありますか?

【大島】質問やインタビューで“何を聞くのか?”という話になると思うんですけど、“こちらが喋る事が出来る”というのは、すごく大きいと思っています。若いスタッフだと、単なる質問みたいになっているんですよ。

【山崎】Q&Aみたいに?

【大島】そうです。“THE 質問”という形になってしまっている。やはり人間同士なので、私がその人にどういう話が出来るのかというのがすごく重要だと思っています。特に著名な方たちは、色んな取材を受けてきているわけです。そうすると、聞き飽きた話をしても仕方がないというのがあるんですよ。だから、どういうアプローチができるかというのはすごく考えますね。

【山崎】事前にかなり調べてから臨むんですか?

【大島】そこは重要だと思います。例えば小川淳也さんに関しても、今の政治状況などを勉強した上で、会う度に「自分はこう思っています」という事を、きちんと言える状態にしています。

【山崎】ドキュメンタリーにも作り手の意図が、ある程度は出ていると思いますし、やろうと思えば過剰な演出も出来ますよね。でも、過剰演出を気にして引き過ぎたら、ただの垂れ流しみたいになってしまうし、この塩梅はすごく難しそうだなと思うんですけど……。

【大島】難しいですね。正解が無くて、作り手によって答えが違う気がしますね。だけど、取材相手が最終的に観た時に、「おかしいじゃないか」と思われないようにするのが、最低限のマナーのような気がします。「あんなシーンも撮っていたはずなのにカットしたのか……」みたいな事はあるかもしれないけど、「大島がそう思ったのなら、仕方がないな。」と思ってくれるというんですかね。

【山崎】取材相手は、公開や放送前に確認はするんですか?

【大島】一切しないですね。

【山崎】公開まで見せない?

【大島】はい。見せないです。

【山崎】それは、緊張しますよね。

【大島】作り手も、緊張していますよ。

“完全なる中立”は難しい だから“私なりの公正さ”は持っていたい


【山崎】小川淳也議員に17年間密着した『なぜ君は総理大臣になれないのか』の続編となる、『香川1区』が現在公開されていますが、作中に「PR映画」と言われたりするシーンも有って、“ドキュメンタリーとは、何なんだろうか?”と考えさせられました。こういったシーンを観て、僕は「大島さんは“ドキュメンタリー作家”だな」と感じたんですよ。

【大島】ありがとうございます。

【山崎】人によって違うと思うんですけど、“ドキュメンタリーにおける中立性”について、どう捉えていますか?

【大島】本当に難しいですけれど、“完全なる中立”は難しいと思っています。ただ、私なりの公正さは持っていたいと思っています。前作『なぜ君』も、結果として小川さんのPRに繋がった事は否定をしません。ただ、私自身がそういうつもりでつくったわけでは無いですし、頼まれてもいないんです。

お相手の平井卓也さんは「これが許されるなら、日本中の国会議員が映画をつくる」という言い方をしていたんですけれども、これは主体をすり替えていて、まるで“小川さんがつくった(つくらせた)”という発言でした。でも、そんなことは全く無いんです。

あの作品によって、小川さんを好きになる人もいたかもしれませんが、「野党のダメさを表した映画だ」や「あんなに青臭い人は、政治家として成功しないよ」という人もいました。これも、受け取り方が様々なんです。だから、私なりの公正さというのは、自分が見た事実や記録を「私はこう思って出しています」と示すことだと思いますし、それが誠実さのつもりなんですよね。

【山崎】作品の影響力や受け手の環境によって、捉えられ方が変わっていくということですよね。これからもドキュメンタリー作品をつくられていくと思うんですけど、ご自身の価値観は、どういった所に根差していると思いますか?

【大島】少し照れ臭いんですけど、自分がつくったものを出す時に「社会的な意味はあるのだろうか?」というのは考えますし、そこは持っていたいなと思っています。だけど、まずは面白いものをつくりたくて、それにプラスして何らかの社会的な意味があったら嬉しいという感じですかね。今回の『香川1区』だと、民主主義というものを考えるきっかけになったら嬉しいとか。

【山崎】次の世代や子供たちのためにといった、世代の事は特には考えないですか?

【大島】大抵のは、若い人に届けたいと思っているんですけれども、ドキュメンタリーは割と年配の方が観ることが多いというのが現実ですかね。「自分より下の世代に届けたい」とは、思っているんですけど。

【山崎】『なぜ君』と『香川1区』は、下の世代にも広がったんじゃないですか。これを観て、僕の中でドキュメンタリーの概念が少し変わった感じがしましたし、これからどんどん広がっていくと良いなと思います。

【大島】確かに、通常のドキュメンタリー映画よりは若い世代に広がったとは思いますね。今は、サブスクリプションなどで海外の凄いドキュメンタリーも観られますので、映画館だけではなく色々なところで可能性が広がっていくと良いなと思っています。

発信するチャネルが多様化している今、やってみたいこと

【山崎】それでは、ゲストのみなさんにお聞きしている質問です。僕、山崎晴太郎とコラボレーションをするとしたら、どんな事をしてみたい、もしくは出来ると思いますか?

【大島】今日お話をしていて、すごくドキュメンタリー的な方だなと。そういうセンスというか感覚が有るなと思ったんですよ。写真をされていらっしゃったからですかね。写真はある種のドキュメンタリーで、一瞬を切り取るのでその影響を感じるのかもしれませんね。

【山崎】実は、学生時代にバックパッカーをやっていて、カメラを持ってフィリピンの山にしばらく行ったりしたんです。でも、先週の大島さんの話ではないですけど、ファインダーを覗いてシャッターを落とすことが、被写体を撃ち抜いている感じに思えて、最初の1週間はシャッターを押せなかったんですよ。1週間経って、やっとノールックで押せるようになったんですけど、あれは今でも思い出しますね。

【大島】そういう経験もされているんですね。本当に、カメラは銃ですよね。

例えば、写真でつくる物語ではないですけど、一瞬を切り取りながら連続性を持たせた写真だけでつくるドキュメンタリーみたいなのは面白いかもしれないですね。

【山崎】組写真みたいなことですよね。それは、やってみたいですね。

【大島】ぜひ。機会があれば、ご一緒しましょう。

【山崎】実現に向けてがんばります!

もう1つの質問です。文化を伝える架空の百貨店があったとして、バイヤーとして一画を与えられたらどんなものを扱いたいですか?

【大島】それはまた難しいな(笑) 僕が昔好きだった、プロレスの古い雑誌のバックナンバーを集めるみたいな感じでいかがでしょうか?

【山崎】プロレスが、お好きなんですね。

【大島】今はもう離れちゃいましたけど、10代~20代前半は寝ても覚めてもプロレスみたいな感じで、大好きでした。

【山崎】最後になりますが、ドキュメンタリーがテレビだけではなく、劇場やサブスクリプションなど、色んなチャネルに多角化していますよね。視聴媒体が変わってくることで、尺や展開であったり、扱い方もどんどん変わっていくと思うんですけど、これからのドキュメンタリーはどうなっていくと見られていますか?

【大島】自由度が増していって、つくり手も増えていくでしょうし、ドキュメンタリーの定義すらもどんどん更新されていくような気がしています。そんな中で、面白い作品が現れてきたりすると思うので、それはすごく楽しみですね。

【山崎】大島さん自身が、やってみたい事はありますか?

【大島】前作の『なぜ君』に関して言うと、公開後にNetflixで配信しているんですけど、初めから配信を意識したドキュメンタリーもやってみたいですね。配信は広がりが凄いので、世界に届けられたら嬉しいなと思っています。

【山崎】配信ありきだと、また少し感覚が違った作品になりそうですね。現実的なところ、今後の予定していることはありますか?

【大島】まずは、公開されたばかりの『香川1区』を、どう届けていくかというのが第一ですね。ですけども、今年は沖縄返還50年なんですよね。ずっと日米地位協定とかに興味を抱いているので、何か取材のとっかかりが出来ないかなと思っている所です。

【山崎】基本的には、人をベースに撮られる予定ですか?

【大島】沖縄返還の企画に関していうと、今までやってきたような人物中心では無い可能性がありますね。今、考えている最中です。

【山崎】確かに、人を中心では難しそうですもんね。また作品が観られるのを楽しみにしています。

2週間に渡ってたっぷりお話を伺って、「ドキュメンタリーが熱い!」と気付かされました。自分の中に、ドキュメンタリーという思考をもう1つ持とうと思いました。2022年の最初の月から、思考の良い拡張ができました。

大島さんの最新作『香川1区』は、現在公開中なので、公式サイトで劇場をチェックしてみてください。そして、『なぜ君は総理大臣になれないのか』は、NetflixやPrime Videoで配信されているので、ぜひそちらもご覧になってください。

今回のゲストは、ドキュメンタリー監督の大島新さんでした。

https://www.kagawa1ku.com/

といった所で、今週の文化百貨店は閉店となります。次回は、アクセサリー主治医、鍛造作家、コンセプトデザイナーのシマダカツヨシさんをお迎えします。

今週の選曲

大島新さんのリクエスト
My Way / Def Tech

山﨑晴太郎セレクト
Hollow Earth / Pye Corner Audio

Spotifyでアーカイブをポッドキャスト配信中

ドキュメンタリー監督

大島 新

1969年神奈川県藤沢市生まれ。1995年早稲田大学卒業後、フジテレビ入社。『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などのディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、以後フリーに。毎日放送『情熱大陸』、NHK『課外授業 ようこそ先輩』などテレビ番組多数。2007年『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞)を監督。2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。2016年『園子温という生きもの』を監督。2020年公開の『なぜ君は総理大臣になれないのか』が、第94回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位に。プロデュース作品に『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018/文化庁映画賞 文化・記録映画大賞)など。

1969年神奈川県藤沢市生まれ。1995年早稲田大学卒業後、フジテレビ入社。『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などのディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、以後フリーに。毎日放送『情熱大陸』、NHK『課外授業 ようこそ先輩』などテレビ番組多数。2007年『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞)を監督。2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。2016年『園子温という生きもの』を監督。2020年公開の『なぜ君は総理大臣になれないのか』が、第94回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位に。プロデュース作品に『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018/文化庁映画賞 文化・記録映画大賞)など。

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©seitaro design,inc.

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